第4話 順国王、順女王

花ノ宮家の長女として薫は期待を押し付けられていた。

「絶対に星宮楓を越えて女王となれ、順女王は認めん」

両親との記憶は怒られたこと、経済について話したこと、それだけだった。

そんな両親は薫が中等部1年の時交通事故で亡くなった。

祖父母に引き取られ、朝から晩まで勉強の日々がやってきた。前は1日10時間の勉強だった。年齢が上がったから、両親もいつかはこうしただろう、そう思って反抗することなく勉強に励んだ。

だけど、いつも学年で3位、女子では2位、1位に、なれなかった。


中等部2年の時に順女王になった。

女王にはなれなかった。

しかも女王は星宮楓。

許せなかった。自分が。

なぜ、成績で勝てないのだろう。

祖父母には成績は楓より上だが、家柄で勝てなかった、と、嘘を言い続けた。

祖父母は経済的には勝てない、だからしょうがない、と薫を責めなかった。


しかし、バレてしまった。

薫の成績が楓より下だということが。


「バカモノ!わしに嘘をつきおって

1週間は地下牢にいろ!」


その1週間は記憶がない。

絶望、罪悪感、なにか分からなかった。

ただ一つ、愛されたかった、そう心でそこから思いが込み上げてくる。



そして今に至る。

昴に誘導され、薔薇の庭園に到着した。


「薫」

自分の名前を呼ばれた。これから何を言われるのだろうか。順国王を辞めてまで私と別れたいというのだろうか。

「泣きたいなら泣けば良い」

泣く?私は泣きそうな顔をしていたのだろうか

「睨んでなかった、涙を我慢するあまり酷い表情になっていた、そうだろう?」

確かにそうだ。花ノ宮家と星宮家の話といえば苦しいことしかない。さっき、自分はあの地下牢でのことを思い出していたのだろう。


涙がポロポロと落ちてくる。

昴が抱きしめてくれた。

「今まで、苦しかったよな、調べたんだ薫のことが気になって」

「私、の、こと?」

「ああ、好きな人のことは気になるんだ」


好き?私を?

だって順国王だから仕方なく順女王である私と婚約したのでは?

余計に涙が止まらない。

今度は悲しみではない。嬉しいからだ。

誰からも愛されなかった。

両親は愛してくれていたかもしれない、でも死んだ。

一人ぼっちだった。

昴は私を抱きしめてくれる。

赤子の時だけだった。人の温もりを感じていたのは。

愛されているって、こういうことなんだ。

「私も、好き、です」

勢いに任せて言った。

とても嬉しかったから。


昴が手で薫の涙を拭き取る。

そして、キス、をした。

昴も勢いに任せていたのだろうが、愛が伝わる甘いキスだった。


そして昴は薫に11本の薔薇を渡した。






11本の薔薇ー最愛




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る