第14話 ファースト接触でお姉ちゃんと説きます。その心はなんだろうねほんと辛い私が何かしたかなぁ誰か教えてよ助けてよなんなんだよぉ
「私はお兄ちゃんに傍にいてほしいだけなのに! ずっと一緒にいたお兄ちゃんがいなくなったのが悲しいだけなのに! どうしてこんな想いをしないといけないの! 本当はお兄ちゃんだって傷つけたくない! でも寂しいの……。どうしようもなくお兄ちゃんのいない毎日が寂しいの! だから帰ってきてよ。お願いだから、私の傍にいてよぉ。どうして怪異を選ぶのぉ……」
「寂しい思いをさせてすまなかった」
恭介はダメージを負いうまく動かない体を引きずりながら妹(もう妹でいいや)の元に近づき、抱きしめる。
「俺の事を支えて来てくれたのは間違いなく凛、お前だ」
「なら……」
「だが、怪異の皆さんもそうだ。けれど、両者には決定的な違いがある」
「……私のかわいらしさ?」
恭介は優しく首を振る。
「怪異の皆さんは、その存在がいつ消えてしまってもおかしくはない。現に、ここにいる花子さんも口裂け女さんも俺が辿り着いたときには、既に消えかけていたんだ。だからこそ、今感謝を伝えないと、伝えるために会いに行かないと後悔する」
「私だっていついなくなるかわかんないのに? 人はいつ死ぬかわからないんだよ」
「ははっ。それは大丈夫だ。凛は俺が死ぬまで絶対に死なないだろ?」
「もちろんだよ! お兄ちゃんと私は一蓮托生。絶対にお兄ちゃんと添い遂げるんだから!」
「なら、凛、待っててくれないか? 俺は必ずお前の元に帰る。俺とお前は一卵性双生児、二人で一人。俺だってお前がいない世界は辛い。だが、そうだからこそ、俺はお前にも強くなってほしいんだ。俺がいない時間は、互いに強くなるための期間だと思ってほしい。そうすれば次会えた時、俺たちの絆はさらに強くなっているはずだ」
ハイライトが消えていた少女の瞳に徐々に光が戻っていく。
「うん……うん……。わかった。私も頑張る……。お兄ちゃん……ごめんねぇ。こんなにいっぱい傷つけてごめんねぇ」
「なあに、軟禁24時の時よりもマシさ。あの時は精神的にも身体的も終わりを迎えるかと思ったくらいだしな」
「もう、お兄ちゃんったら」
「ははっ」
妹の頬を流れていく涙。
そこには、確かな愛情があるように思えた。
「兄妹の絆って素敵ですね、花子さん」
隣にいる口裂け女は感動のあまり涙を流しているけどどうなんだろもう知らんみんなの感情理解できなさ過ぎてつらたにえん祭りフェスティバルカーニバルサンダーバード。
なんかいろいろツッコみたいけど、花子、疲れちゃった。
しんどいっす。
でも、一つだけ。
今の全部、成人男性二人の会話なんだよなぁ。
どぎついよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
☆
「お騒がせしました」
マンションに戻ってきた私たち。
恭介の妹は玄関先で深く頭を下げる。
「いえいえ、お気になさらないでください! 私だって愛する人がいなくなったら、きっと凛さんと同じで発狂しちゃいます」
「そう言ってもらえると救われます……。花子さんもすみませんでした」
「いや、別にいいよ。私はマジでもうなんか疲れたし寝たい」
いや、怪異に寝るとかの概念はないけど、なんか眠いって気持ちが分かった気がする。
辛いんよぉ。
「あの、よければなんですが、凛、って呼んでください」
妹は頬を赤らめながら、もじりもじりと両の指先を胸元でいじる。
は?
「は?」
あ、やべ。
声に出ちゃった。
「なんで? 私と君ってそんな仲になる感じじゃなくない?」
距離感バグってる口裂け女ならまだしも。
「花子さんの作り出した場所に取り込まれた時、私はあなたを感じることができました。これまで、霊能力・霊感ゼロだったがゆえに、怪異の存在を感じることのできなかった私が、あなたの【中】に取り込まれたことで、初めて生で怪異の存在を感じることができたんです。ずっと、怪異を感じたくて仕方なかった。ずっと、お兄ちゃんと同じ世界を見たくて仕方なかった。そんな私を初めてお兄ちゃんの世界に連れて行ってくれたのが花子さんなんです! つまり、私のファースト怪異は花子さんなんです! だから、私のこと、凛って呼んでくださいそこから距離を縮めていきましょう! お兄ちゃんはファースト慰めを、私はファースト接触を花子さんに奪われたんです! これはもう運命としか言いようがありません! 凛、って呼んでください! 凛ちゃんでもいいですね! ちゃん付けされるとなんか妹出ていいですね! たまらんですね!」
こちらを見る目が爛々と輝いている。
それは初めて恭介と会った時と同じ光だった。
「や、やだ……」
私は恐怖のあまり、一歩下がる。
「そんなこと言わずに! もしかして、凛よりも別の呼び方がいいですか? あ、私、花子さんのことお姉ちゃんって呼びたいです! 呼びますね! お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「やだあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
私は叫びながら、トイレへと逃げ込み鍵を閉めた。
「どうしたのお姉ちゃん!? なんでトイレに入っちゃうの!? もっと私にお姉ちゃんを感じさせてよ! もっとお話ししようよ! お姉ちゃんのこともっと知りたいの! ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ!」
圧!
圧が初めて会った時の恭介と同じ!
こんな迫り方しかできんのかこの兄弟は!
「お願いだからもう帰ってぇ……」
「うん! お姉ちゃんの顔見たら帰るね!」
そこから丸一日、妹はドアの前で喋り、ドアをノックし続けた。
根負けした私が出てきたときの笑顔が、恭介のそれと同じだったことは言うまでもない。
ちなみに、凛、ちゃん(根負け)は恭介の隣の部屋を借りて住むことになった。
次会う時は、って言ってたじゃん。
そこについて聞くと、「だって、せっかくお姉ちゃんもできたんですし、少しでも傍にいたいです」って言ってた。
言ってたよ。
柔軟だね。
うぐぅ……。
加えてちなみに、どうやら凛ちゃんは私と濃密すぎる接触をしたせいか、私限定で装置なしでも認識し、触れることができるようになった。
それを知った口裂け女が「凛さん、私の中にも入りましょう!」と迫っていたのはまた別のお話し。
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