第13話 旦那の扱い

 結局、灯はトマトを五個も食べてしまった。


 次々と自分が育てたトマトを嬉しそうに持ってくる大翔をどうしても適当にあしらうことができなかった。


「夕飯前にこんなに食べちゃって…」

「…だって灯ちゃんがいけないんじゃん」


 プンスカしている大翔は頬を膨らませる。


「俺の子を貶したから、わからせるには食べてもらうしかないし…」

「…野菜を『子』と言わないでください」


 なんで、と訝しむ大翔に灯は苦労する。


「…でもまあ悪くなかったですよ」

「悪くない?」

「…美味しかったです」


 大翔に強制的に訂正させられた灯は立ち上がって畑を見渡す。


「大翔はこの畑を一人で管理してるのですか?」

「そうだね」


 一人で面倒をみるには結構な広さではないだろうか。


「…これだけ美味しい野菜をお一人で育てられるのは凄いです」

「そ、そうかな〜」


 へへ、と大翔は鼻を手にやる。


「肥料とかは母さんが未来から買ってきてくれたりしたから助かるんだよね」

「なるほど」

「ま〜でも、何と言っても俺が愛情込めて作ったってのが一番──」

「それはありますね」


 灯は大翔の言葉を半分遮り、しゃがんで実をつけたきゅうりの下──黒土を見る。


 未来の発達、進化した肥料なら育てやすいかもしれない。


 手で土に触ってみる。


 温かくて…気持ちがいい。


 片手で被っている麦わら帽子に手をやると初夏の日差しをたっぷり浴びているため熱を帯びている。

 時折吹く風も暖かく、これから本格的な暑さが来るぞと予告しているかのよう。


 こうやって外に出て土をいじるのもいいかも。


 少なくとも術式の勉強よりはいい。


 手を叩き、土を落として立ち上がる。


「大翔様、私はそろそろ……どうしました?」


 甚平姿の旦那様はわかりやすいくらいしょぼくれている。


「…どうせ俺のおかげじゃないし…母さんの肥料のおかげだし」

「……」


 めんどくさいスイッチ入れちゃった。


 このまま置いて帰ってやろうかと、思ったが流石に後味が悪いので旦那の機嫌直しを試みる。


「…愛情こめて作ったってのはわかりましたから」

「……」

「…一人で管理するのは大変ですよね」

「…趣味だから大変じゃない」

「…」


 イジイジ、と土をいじっている大翔は顔をあげてくれない。


 困ったな。


 うーん、と灯は唸る。


 なんて言葉をかけたら機嫌が戻るのだろうか。


 灯はこめかみに手を当てて思案する。


 ──育てた野菜を食べさせたい。

 ──野菜を「子」という旦那。


 褒める路線を変えてみよう。


 灯は大翔に近づきしゃがみこんで優しく話しかける。


「…本当にきゅうりもトマトも美味しかったです」

「…それはどうも」

「…特にトマトは美味しかったですよ。五個も食べたんですから」


 強制的──だったが。


 大翔の顔が少し上がる。

 まだまだ表情は暗い。


「…ですから、他の夏野菜も食べてみたいです」

「…本当?」


 ええ、と頷く灯に大翔の目が少し大きくなる。


「形は悪くても、味は良いのはよくわかりましたので」

「…何事も中身が大事だからね」


 大翔の顔の表情が緩んできた。


 もう一押し。


「生で食べれないもの…ありますよね?」

「う、うん。あるよっ」

「何がありますか?」


 えっとねー、と大翔は立ち上がり指さしながら教えてくる。

 灯は指さされる方向を見て黙って聞く。


「──あとは、そっちにトウモロコシがあるよ」

「トウモロコシですか。よかったら夕食時にいただきたいですね」

「いいよ!今採ってくる!」


 いつもの調子に戻った大翔は駆けていった。


 未来には「ちょろい」という言葉あるみたいだけど、大翔様はまさに「ちょろい」かも。


 灯は嬉しそうな大翔を見て微かに口角を上げる。


 悪い人ではない。

 それだけは分かる。


 口笛ふきながら収穫している大翔を見てほんのりと胸が暖かくなる。


 甘いマスクを輝かせて戻ってきた大翔は沢山のトウモロコシを抱えていた。


「何本食べる!?」

「…一本で十分です」

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