薬師の箱庭 不器用な聖女は癒やしの香りで愛を紡ぐ【AI完全丸投げ小説 何も考えない! 破綻しててもおかまいなし!】
毒の徒華
第1話 森に咲く花、孤独な日々
深い森の奥、木漏れ日が細い筋となって苔むした地面に落ちる、
ひっそりとした場所に、リリアの小さな小屋はあった。
土壁に藁葺きの屋根、素朴な佇まいが、まるで森の一部であるかのように周囲の木々に溶け込んでいる。
彼女は、この森で生まれ育った。
物心ついた頃から、他の誰もが耳にしない「声」が聞こえた。
それは、風に揺れる草花のささやきであり、朽ちた木々が土に還る音であり、あるいは、病んだ植物の苦痛のうめき声でもあった。
「ああ、そこのスグリはもう少し日が欲しいみたいね」
リリアは膝をつき、掌を優しく差し出す。
掌から伝わるわずかな振動が、スグリの木の「声」をより鮮明に伝える。
少し離れた場所から、木漏れ日が当たるように周囲の枝を剪定してやると、スグリは「ありがとう、心地良いわ」とでも言うように、葉を微かに震わせた。
彼女にとって、この森の植物たちは、誰よりも雄弁な話し相手だった。
村は、ここから馬で半日ほどの場所にある。
稀に村人が、薬草を求めて森の入り口までやってくることがあった。
彼らはリリアが摘んだ薬草を恐る恐る受け取り、無言で、あるいは小声で礼を言って去っていく。
村人たちはリリアを「森の娘」と呼び、決して深く関わろうとはしなかった。
彼女の持つ、植物の声を聞くという不思議な能力は、彼らにとって畏怖の対象だった。
幼い頃、無邪気に植物と話す様子を見せた時、村人たちの顔に浮かんだのは、喜びでも驚きでもなく、ただ純粋な「恐れ」だったことを、リリアは今でも覚えている。
それ以来、彼女は自分の能力をひけらかすことをやめ、村人との交流も最低限に抑えるようになった。
しかし、孤独を感じることは少なかった。
彼女の周りには、常に植物たちがいたからだ。
小屋の裏には、彼女が大切に手入れしている薬草園が広がっている。
薬効を持つ様々なハーブや、珍しい花々が、整然と、しかし伸びやかに育っていた。どの草木も、リリアの優しさに触れて、生き生きとしている。
「今日の採集はこれで十分かしら」
籠いっぱいのミントやカモミール、そして珍しい紫色の花――それは、鎮静効果の高い「夜明けの雫」という名の薬草だった――を抱え、リリアは小屋に戻った。
小屋の中は、乾燥させたハーブの芳しい香りで満たされている。
壁には様々な種類の植物が吊るされ、棚には調合された軟膏や煎じ薬の小瓶が並んでいた。
リリアは今日採ってきた薬草を丁寧に仕分け、それぞれに適した方法で保存していく。
この作業は、彼女にとって至福の時間だった。
植物たちの「声」を聞きながら、彼らが持つ力を最大限に引き出す。
それは、彼女に与えられた使命だと、漠然と感じていた。
夕闇が迫り、森の空気がひんやりとしてくる頃、リリアは小さな灯りを灯した。
囲炉裏にかけた鍋からは、シンプルな豆のスープの湯気が立ち上る。
食卓には、森で採れた野いちごが添えられていた。
静かな食事が終わり、窓の外に目をやると、満月が森を銀色に染め上げていた。
月明かりに照らされた木々のシルエットは、まるで巨大な生き物が休んでいるかのようだ。
リリアは静かに微笑む。
この森で、植物たちと共に生きる。
それが彼女の全てだった。
しかし、その穏やかな日々が、間もなく終わりを告げるとは、この時のリリアは知る由もなかった。
遠い王都では、若き国王が原因不明の病に臥せり、国中に暗い影を落としていたのだ。
そして、その病を癒やすことができる者が、森の奥にいるという噂が、静かに、しかし確実に広がり始めていた。
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