第12話 魔法で作るガチャマシン

 カイルとアンジェリーナの二人はカードバトルに興味を持ってくれた。このまま勢いに乗って、実際に対戦してもらおうと思ったんだけど――


「肝心のカードが足りない」


 なんせ、あのコレクター気質全開のお嬢様・アンジェリーナが、僕の手持ちを根こそぎ買い占めてしまったのだ。

 カイル用にいくつかパックを譲ってもらえないかと交渉してみたけど、あのお嬢様は断固拒否。

 カイルは苦笑しながら、「次はもうちょっと多めにカードを用意してくれ」って僕に頼んできた。

 結局、その日はそれでお開きとなった。


「もっとカードの生産量を増やさなきゃいけないってことか。となると、時間をどう捻出するかが問題だな」


 今のところ思いつく方法は一つ。

 自分で売り歩く時間を減らして、製作に集中すること。


「でも、僕には使える人間なんていないしなあ」


 たしかに、家には何人か従者がいる。けど、あくまで彼らは父の指揮下にある人たちで、僕自身の専属ってわけじゃない。

 それに正直、ゲームに興味も愛もない人にこの仕事を任せるのは、あまり気が進まない。だから結局、今はまだ自力でやるしかないんだ。


 エルリスに頼めたらいいかもしれないけど……彼女、普段から忙しそうだし、たぶん手伝ってる暇なんてないだろうな。


「もし誰か、代わりに売り歩いてくれる人がいれば、カード製作に割ける時間も増えるのに。

 それにアンジェリーナみたいな独占行為も、ちょっと考えものなんだよな……まあ、あの人もちゃんと対価を払ってるわけだし、こっちが一方的に制限するのも筋が通らないっていうか……」


 ――あ。


 ひらめいた。


「そうだ。カードを売るってだけなら、なにも僕が直々に行かなくてもいいし、『人』じゃなくたっていいんだよな」


 ――そうだった。忘れてたけど、僕って一応魔法使いだったわ。

 別に真理を追い求めたり、魔導を真面目に研究したりしてるわけじゃないけど、でもまあ、一応は魔法使い。


 普通な方法がダメなら、魔法で解決すればいい。

 大事なのは、「売る」という行為が成立すればいいってことだ。


「条件に合いそうなのは……まず思いつくのは、自販機、ガチャマシンだよな」


 我ながら、いいアイデアだと思う。

 自販機なら、指定された金額を入れるだけでカードがコロンと出てくる。

 これなら僕は補充作業に専念すれば済む。


「あれも防げるかもな。カードの買い占め――とか。

 自販機を複数設置して、在庫を分散させておけば、さすがのアンジェリーナでも一度に全部を独占するのは難しい。

 そうなれば、他の人が手に入れるチャンスも増えるはず」


 よし、決まりだ。

 当面の目標は――自販機の開発、だ。


「とはいえ、今の僕じゃ大型の装置なんて作れないしな……。もっと小型のタイプに集中するか。まあ、魔法でゴリ押しすれば、なんとかなるだろ」


 こういうときこそ、僕が愛用してる造形魔法の出番ってわけだ。


「やっぱ土は便利だな――起きろ」


 全力で思い出す。前世、子どもの頃に遊んだ紙製のガチャマシン。

 その記憶を頼りに、カードパックを収納できる箱と、中央に回転してカードを押し出す軸を作っていく。

 回転軸の上にカードを積み、下側を回せばカードが一枚ずつ吐き出される構造だ。

 カードが一枚出たら、重力で次のカードが自然に所定位置へ落ちてくる。


「ん……基本構造はこれでいいかな。でも問題は、どうやってコインを投入してからじゃないと回せないようにするか、だよな。

 それに、単純に重さだけで判定するのはダメだ。偽コインとか入れられたら困るし……」


 僕は別に、機械設計に詳しいわけじゃない。

 せいぜい朧げな記憶と自分の勘を頼りに作ってるだけだ。

 でも今の僕には魔法の知識がある。つまり、複雑な仕組みは魔法という名の暴力でゴリ押しすればいいのだ。


 何とかなる。


「確か、金属の材質を識別する簡易魔法があったな。あれの魔力反応をこっちに繋いで……

 それで、ここに魔力信号を受け取る術式を書いておいて、反応があったときだけレバーを解放する、ってのはどうだろう」


 ――やっぱり、物作りって楽しいな。


 ああでもない、こうでもないと試行錯誤して、自分の考えを形にしていく。

 構造や術式をあれこれ加えて、汗だくになりながら没頭する。

 間違えて、直して、少しずつ完成に近づいていくその過程は、まるで積み木を組み立てているみたいで、妙な満足感があるんだ。


 それにこの装置が、僕のカードゲームの布教に役立つって思うだけで、やる気がどんどん湧いてくる。


「よし」


 完成した試作機を見つめながら、僕は汗をぬぐった。


 土でできた、見た目は素朴な小型の装置。

 背面のスロットにカードパックを入れ、正面から銀貨を投入。

 慎重にハンドルを回すと――カラン、とカードパックが無事に出てきた。


「ふぅ……なんとかプロトタイプ完成ってとこか。

 あとは量産と改良をどうするかだな。最初は土だけでいいかと思ったけど、術式の維持には結局触媒をいくらか使っちゃった。

 でも、浮いた時間を考えれば、この程度のコストは十分許容範囲だよ」


 こうして僕はひと息ついたあと、再び装置の改良に取りかかった。

 いや、もう『装置』なんて言葉じゃ足りないかもしれない。

 あれだけ魔法を組み込んだんだ、もはや簡易的な『魔術礼装』と呼んでも差し支えないレベルだ。


 今回は、先ほど作ったコンセプト機をもとに、容量を拡張。

 もっと多くのカードパックと硬貨を収納できるように調整した。


「やるぞ! カードゲーム普及のためにッ!」


 内なる闘志がメラメラと燃え上がる。

 そのまま僕は夢中で手を動かし続けた。


 ――そして、夜は深まっていく。

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