第6話 こっそり冒険者ギルドへ
僕ら魔法使いの世界は、驚くほど狭いんだ。
なにせ、探求する魔術ってやつは、何世代にもわたる積み重ねが必要だし、才能すらも血筋で保証されるものなんだ。
研究の成果もほとんどが
しかも、日々のほとんどを研究に費やすとなれば――自然と、僕たちは孤立して、神秘的な存在になっていくわけなんだ。
でも、僕にとっては――人と関わることも、必要なんだ。
だってさ、いくらゲームってものを作ったところで、プレイヤーがいなきゃ、あまりにも寂しいだろ?
自分で開発したゲームに、より多くの人が触れてくれて。
そのゲームで誰かが笑って、怒って、泣いて、楽しんでくれる。
それこそが、
というわけで、今日もまた城下町へ足を運んでしまった。
エルリスは、どうやらここ数日ちょっと忙しいみたいで、来られないらしい。
せっかくヒーローユニットを完成させたってのに、一緒に遊んでくれる相手がいないとなると――やっぱり、むずむずする。
そんなムズムズを発散するために、僕はこっそり外に出たってわけだ。
活気に満ち、人の声が入り混じる城下町。
やわらかな日差しとそよ風、そこにほんのり漂う食べ物の匂い。
道行く人々は忙しそうに行き交い、商人たちは元気に声を張り上げていた。まあ、いかにも平和そのものって感じの光景だ。
そんな中、僕は慣れた足取りで人ごみをすり抜け、街でいちばん大きな建物へと向かった。
冒険者ギルド。
――そこが、僕の目的地だ。
辺境の街にしては、ここの冒険者ギルドはやけに立派だ。
いや、もしかすると辺境だからこそ、これだけの規模が必要なのかもしれない。
そのあたりの事情は、世俗に疎い僕にはよく分からない。まあ、どうでもいい。
扉を押し開けると、広々としたロビーが目に飛び込んできた。
木製のカウンターにテーブルと椅子、どっしりとした柱や壁――実用性と防御力を重視した造りだ。
有事の際に攻撃を耐えられるよう、防衛拠点としての役割を意識した設計かもしれないし、あるいは血気盛んな冒険者たちが酔って暴れたとき、設備が壊れないように考えられた構造かもしれない。
そのへんは全部、僕の勝手な推測だけど。
酒場でもあるギルド内には、すでに多くの冒険者たちがくつろいでいた。
昼間っから、ビールらしき飲み物を片手にのんびりしている者もいる。
そんな中、僕は目立たないけれど馴染み深い――もはや僕の指定席と化している片隅の席に腰を下ろした。
ここに来た目的は単純。インスピレーションを得るためだ。
「よいしょっと」
背負っていた荷物を下ろし、テーブルの上にきちんと並べる。
それから紙とペンを取り出し、ギルド内の冒険者たちに視線を向けた。
僕は彼らの装備の特徴や細部、表情や仕草――
興味を惹かれたものを次々と紙の上に描き留めていく。
素早く、簡潔に。それでいて、確かに本質を捉えるように。
五枚目のスケッチを描いていたところで、誰かが僕の視線を遮った。
「やあ、アルム。久しぶりだね。こんな時間にここにいるなんて、珍しいじゃないか」
声をかけてきたのは、爽やかな笑みを浮かべた青年だった。
金色の髪に凛々しい顔立ち、軽鎧と剣を身に着けたその姿は、まるで物語から飛び出してきた勇者のようで、彼の周囲には光が漂っているかのようにすら感じられる。
「……おう、カイル。久しぶり」
僕は青年冒険者――カイルに軽く会釈した。
彼はにこりと笑って、僕の正面に腰を下ろす。
「また人間観察かい?」
「んー、まあね。今僕が試してるやつ、見た目にもこだわらなきゃいけなくてさ」
僕はスケッチに最後の一筆を加え、それをくるりと巻いてしまった。
「なるほど。君らしいや。そういう面白いことに夢中になってる姿が見られて、元気そうでよかったよ」
カイルは手元のカップを軽く揺らす。
ふわりと、ぶどう酒の香りが漂ってきた。
僕は青年に問いかけた。
「カイルは? 最近どう?」
「んー、ついさっき一つ依頼を終えたばかりでね。今は休養中ってとこ。暇つぶしでもしようかと思ってたところに、君を見かけて」
太陽みたいな笑顔で、カイルは微笑んだ。
たぶんあれは、近所の女の子たちにはちょっと眩しすぎる笑顔だ。
彼は懐から数枚の銀貨を取り出し、僕の方へと差し出した。
「一局、付き合ってくれるかな?」
「はいよ。ご利用、ありがとう。で、シナリオはどうする?」
「いつも通り、君に任せるよ」
「了解。たしか希望編成は……剣士一人、タンク一人、弓兵一人、それから盗賊一人だったよね」
「ああ、頼む」
僕はバッグからいつもの土を取り出し、それをテーブルの上にぱらぱらと撒いた。
続けて、指先で卓の縁を軽く叩きながら魔力を流し込む。
すると、カイルの目の前にいくつかの小さな兵士の駒がふるふると浮かび上がり、テーブルには簡素な地形が描き出された。
「──何度見ても不思議だ。さすがアルム」
「この程度なら朝飯前さ。……さて、挑戦したい敵はどうする?」
そう僕が尋ねると、カイルはその端正な顔に好戦的な笑みを浮かべ、まるで当然のように答えた。
「いつも通り、今のところ最強のやつを頼む」
「──まったく、カイルはほんとに変わらないな。相変わらず最高難度が好きだよね」
「当然さ。私は冒険者だから」
「そこまで言うなら……僕のとっておき、出すしかないなっ」
僕はバッグの中から一つの駒を取り出し、テーブルの上にどん、と置いた。
それを見たカイルは、目を見開いた。
「……まさか!」
「そのとおり」
思わず得意げに両手を広げて、僕は駒を見せつけた。
鎌のように曲がった首筋、鋭く尖った牙、コウモリのような翼、ごつごつとした巨体に長く伸びた尾。
赤い鱗は
ルビーのような瞳が、カイルの前に並んだか弱い兵たちを睥睨していた。
「――ドラゴン、である」
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