調書3 鳴り響く・・・・・・

 合唱コンクール、本番まで時間が無い。最後の合同練習から練習続きで両手の痛みもピークに達していた。 


 それでも練習を止める訳にはいかない・・・・・・例のパートでピアノが止まってしまうからだ。


 何度も何度も繰り返す。集中し、何かを掴みかけている時だ・・・・・・


〝チッ チッ チッ チッ〟


 針の音が聞こえた気がして演奏を止めた。


 何故?


 音楽室の時計は止めたはずだ。私は他に時計が無いか探して見る。しかし、音を鳴らす物は何も無かった。


 気のせいか・・・・・・


 もう一度、ピアノと向き合う。

 

〝チッ チッ チッ チッ〟


 まただ・・・・・・確かに針の音が聞こえる。メトロノームは止めているし、時計では無い。音の正体を掴めないまま、その日の練習を終えた。


 どこから聞こえてくるのだろう?疑問は拭えない。


 その日の夜、ベッドに入り眠りに付こうとすると・・・・・・


〝チッ チッ チッ チッ〟


 針の音だ、部屋の時計は全て電池を外し止めてあるはずだ。私は部屋中を探し回った。


 クローゼット、机の引き出し、窓を開けて外の音も確認してみた。


〝チッ チッ チッ チッ〟


 音は止まらない、それどころか更に大きな音を立てて鳴り響く・・・・・・頭は割れそうにいたくなった。


「どうして?音はどこからでているの?」


 部屋中を探してみても見つからない。


〝チッ チッ チッ チッ〟


 「一体何処なの?」


 私は半狂乱になりながら、音の出所を探した。


「見つからない・・・・・・見つからない・・・・・・見つからない」


 いつまでも音の出所は分からなかった。


 諦めてベッドに戻る、音は容赦無く私の鼓膜を襲ってくる。私は布団に潜り、耳を塞いだ。


 そして、眠れないままで朝を迎えた・・・・・・次の日も針の音は鳴り止まない。音は更に大きくなり頭の中に響いていた。


 合唱コンクールは明日だ。


「お母さん、ごめんね少しの間だけ時計を止めさせて」


 心配する母を横目に家中の時計を止めた。それでも鳴り止まない針の音・・・・・・家中をさがしても音の正体は分からない。


〝チッ チッ チッ チッ〟


 鳴り響く針の音、それはまるで凶器のように私の鼓膜を切り刻む。


「ねぇ、みなみ・・・・・・大丈夫?どうしたの?」


 母が優しく私に問いかける。しかし、心配は掛けられない。合唱コンクールは明日に迫っている。

 

「大丈夫・・・・・・心配しないで、明日は楽しみにしていてね」


 母も私のピアノを楽しみにしている。ここまで練習して投げ出す訳にはいかない。

 

「みなみ、無理しないで」


 母の優しさに救われた。


 針の音は止まらない・・・・・・合唱コンクールは明日だ。



 ――鳴り響く・・・・・・考察――

 

 彼女は相当、追い込まれていた。このカウンセリングを行ったのは合唱コンクールの前日である。


 私は彼女を危険な状態だと判断し、明日の合唱コンクールのピアノ演奏を中止を勧めた。


 しかし彼女の決意は固かった・・・・・・


「お願いだから、演奏させて下さい・・・・・・母も楽しみにしているんです」


 この状態での彼女の優しさが痛々しい、私は止める事が出来なかった・・・・・私は、その判断を後悔する事となる。

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