思い出される記憶 1
相談日誌を閉じると、蓄積していた埃が相談室を舞った。埃は月明かりに照らされキラキラと輝きとても美しく感じられた。
佐藤ゆかさん・・・・・・一番、最初に相談に来てくれた生徒だった。顔も声もはっきりと思い出す事が出来た。
静かで優しそうな生徒、心臓の声に支配された生活はきっと苦悩に満ちていたに違いない。
彼女は屋上から飛び降りた後に、病院に運ばれた。三階建ての校舎ということもあり、体の数カ所を骨折する重傷だったが幸い彼女の命に別状はなかった。
彼女が包丁で刺してしまった母親も、自ら、救急車を呼び命は助かったようだ。
命が失われなかった事が、不幸中の幸いだった・・・・・・
私は、彼女とのカウンセリングの調書を母親に渡し、知り合いの病院を紹介した。退院後は別の高校へと転校し、私はその後を見守るまでもなく、この学校を去ってしまった。
心臓の声は消えたのだろうか・・・・・・今は祈る事しか出来ない。
この事件はカウンセラーとしての自分には大きな挫折となる。
彼女が飛び降りずに済んだ方法があったのではないか・・・・・・
彼女と母親との関係にもう少し早く対応出来なかったのか・・・・・・
私は判断を間違えていたのでは無いか・・・・・・
考えだしたらきりが無い・・・・・・
振り返ると、急に心臓の鼓動が早くなる。彼女の事件は私の大きな心の傷だった。
今でも彼女が地面に落ちたあの鈍い音が忘れる事が出来ない・・・・・・
本当に、命があったことが唯一の救いだ・・・・・・
どうしてこのような大事な事を忘れてしまっていたのだろうか・・・・・・そして、彼女は今、幸せだろうか?
もっと相談を受けた生徒はいたはずだ・・・・・・私は再び相談日誌を開いた。
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