第36話 レミー・カーラン夫人(閑話)
『私の王都屋敷に可怪しな使用人が出入りしてますわ…… どうやらハロルドが雇ったようですけど? 誕生神を信仰してる様子から神聖公国の狂信者ですわね。一人、魅了して確認してみましょう』
ハロルド・カーラン伯爵夫人となったレミー・カーランはアーメリア帝国への足がかりが無くなったので、ほとぼりが冷めるまで暫く伯爵家の領地に引っ込んでいたのだがこのままでは自分の野望が叶えられないと考え王都屋敷に戻ってきた。
そこで見たのは新しい使用人たちであったのだが、数日を過ごしてみて神聖公国の信者である事を見抜いたようだ。
その夜、自分の部屋に入ったレミーは自分付きの侍女という女性に魅了を使用した。しかし……
『掛かりが悪いようですわ。これだから狂信者は…… でも掛かってない訳では無いようですから質問をしましょう』
「さて、あなたはクリアナと言いましたね。何が目的で私たちの王都屋敷の使用人となったのかしら?」
「はい、レミー様。私たちは偉大なる誕生神様への崇拝を広めようとサーヴァン王国にやって参りました。こうして貴族の方の使用人として雇って頂きまして、貴族の方々が真の人として目覚めるお手伝いをさせて頂くのが目的でございます……」
『どうやら神聖公国の狂信者の親玉(教皇)が三国を狙っているようですわね…… これは面白い事になりそうですわ。あの教皇には魅了が効くかしら? 試してみる価値はありそうですわね…… 先ずは私の神様にお願いして更に魅了の力を上げて頂かないとダメですわね。願いの塔に行きましょう』
願いの塔とはサーヴァン王国にあるダンジョンで、最上階である十五階にある祭壇で神に祈りを捧げると願いが叶うという塔である。
因みにこの願いを叶える神は誕生神ではなく、創造神だと言われている。
サーヴァン王国は創造神、豊穣神など多数の神を祀る神殿や教会が多くある多神教の国である。もちろん、誕生神の信仰も認めているがそれは神聖公国とは別の誕生神信仰である。
(余談であるが、クロスの領地に作られた教会は豊穣神の教会である。これはクロスの希望で食物が実り豊かな領地になるようにと願っての事であった。)
『願いの塔ならば護衛を雇えば最上階までいけますわ。けれども慎重に護衛を選ばないとダメですわね…… お父様に仕えていた騎士団は既に引退してお母様の実家に引きこもったお父様について行ってしまってますし、今領地にいる騎士団を呼び寄せるには時間が掛かりますし…… ハロルドを通じて王家の騎士団を借りるのは理由が必要でしょうし…… 困りましたわね。側妻たちの実家の騎士団は弱いですしね。どうしましょうかしら?』
護衛をどうするか悩むレミーであったが、名案を思いついたようだ。
『そうでしたわ!!
そうしてレミーは一人で大きなベッドに横になり眠りにつく。魅了で支配した侍女には扉前に立って見張りを命じている。
万が一、億が一の確率でハロルドがレミーの寝室に入ってきた時に止める役目である。
まあ、側妻たちの相手をしているので来ることは無いのだが……
起きた翌日、レミーが寝ていた間、ずっと見張りをしていた侍女に命じて庶民的な服を持ってこさせる。
それに着替えたレミーは共も連れずに街へと繰り出した。
『さて、何処の道場が良いのかしら? 先ずは街中で評判を聞いてみましょう』
レミーは屋台に向かい雑談を交わしながら街中にある道場について話を聞いていく。その際に軽く魅了の能力を使っている。
『どうやら総合武術と
そうしてレミーは王都にある総合武術道場【
そして、
『竜虎と呼ばれる二人が良いようですわね。錬心館の竜と呼ばれるライは剣術に体術、虎と呼ばれるハレスは闘気術を得意としているとか。しかも二人は付き合っているとか…… フフフ、好都合ですわ。この二人を私の護衛としてしまいましょう』
二日かけて調べ上げたレミーはそう決めてライとハレスが揃って道場から出てくるのを待つのであった。
チャンスは直ぐにやってきた。レミーが軽食店でライとハレスを持っているとナンパしてくる男たちがいたのだ。時間帯もちょうど良かった。
「いや、止めて下さい! 誰か、助けて!!」
男たちを恐れて軽食店から飛び出した風を装いながらわざと男たちに追いつかせて手を掴まれたレミーは庶民の女性と同じように振る舞う。
そこにちょうど道場から出てきたライとハレス。レミーが男たちに手を掴まれているのを見て直ぐに走ってやって来た。
「お前たち、錬心館の目の前で良い度胸だな。俺はライという。名前ぐらいは聞いた事がないか?」
「私はハレスと言います。錬心館でライと共に師範代をしています」
男たちに向かってライとハレスがそう名乗ると男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。レミーはすかさず能力を使いながら二人に礼を述べた。
「危ない所を助けていただき有り難うございます。お時間があるのでしたらこちらの軽食店でお礼をさせて頂けませんか?」
ライもハレスも死んだような目になり、レミーの言葉に頷いた。そうして、二人を魅了したレミーは二人に願いの塔での護衛を命じて、道場主にも了承を取りに行かせた。
「フフフそれでは明日、願いの塔の前で待っていますね」
「分かった」
「分かりました」
こうして使える手駒を手に入れたレミーは翌日、願いの塔に向かったのだった。
願いの塔の中では危なげなく進む事が出来ていた。そして、苦労することなく最上階にたどり着いたレミーは神に願う。
『たどり着きましたわ、神様。私の能力をもっと強力にして下さいませ!!』
『そなたの願い、叶えよう』
神からの返事もちゃんと聞こえてきた。レミーは満足して願いの塔を後にした。ライとハレスの魅了は完全に解かずに二人を解放する。
「また何か用事ができたらお願いしますわ」
「分かりましたレミー様」
「レミー様、またお会いしましょう」
願いの塔の中でこの二人が物理的に有能な手駒である事が分かったレミーは手放さずに何時でも使えるようにと魅了をかけたままにしておいたのだ。
「フフフ、さあ狂信者どもも利用して差し上げますわ。私の野望を叶える為にね。フフフ」
レミーの不気味な笑いが王都屋敷の私室にて響いていた……
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