第16話 領地の件

 ヨーネ王国のクロスワイト公爵家からの婚約申込みの手紙が届けられてから二日後、私は領地へと赴いていました。


 二つの村の中間地点にテントを張って貰い、そこに村長二人と村の代表格と言われている者たちも来て貰いました。各村三人ずつ、六人と村長二人の八人がテントの前に立って待っておりました。


「待たせたようですね、すみません」


「いえ、領主様! 私たちも今さっき着いたところです!」


 畑、畜産村の村長がそのように言ってくれました。私はテントの中に皆さんを招き入れます。

 

 テントの中には全員が座れるようにちゃんと椅子が用意されています。机もあります。全てコーベスが村人に指示して用意してくれたのでございます。村人たちにはちゃんと報酬も支払った事は確認してあります。


 コーベスが座るように指示を出して村長二人に資料を手渡しました。

 資料には私の決めた街割りが描かれています。二人の村長は食い入る様に資料を見ています。さて、二人からはどういう意見が出るでしょうか?

 

 私はそう思いながらコーベスに進行するように目で合図を送りました。


「お二人とも良く見て下さっているようですので領主様であるシュヴァルト子爵様の考えを私がここで述べさせて頂きます」


 とまあこの様にコーベスを正式に私の部下として採用しました事をここで皆様にお知らせしておきます。コーベスが取ってきた見積りは完璧でございました。

 私の屋敷の費用は私の試算では金貨百二十五枚でございました。けれどもコーベスは金貨百枚での見積りを取って参りました。

 街を守る外壁は私の試算では金貨六百枚でございましたが、コーベスは金貨五百枚の見積りを取ってきました。

 工事内容を確認しましても、一切の手抜きなどはありません。まあ、これは机上のものですので実際に工事が始まれば確認をする必要があるでしょうが、それでも見積りを取ってきた親方衆は私の工房のダイゴウ親方から誠実な方ばかりだとのお墨付きを頂いております。


 やはりコーベスはとても優秀なのだと改めて私は確信致しまして、この場も村長二人からのコーベスでは抑えきれないだろうという反発が無い限りは私は口出しをしないつもりでございます。

 以上、余談でございました……


「シュヴァルト子爵閣下は二つの村を無理に一つにするのではなく、資料にあるように二つの地区に分けるお考えです。畑や畜産の村を農産地区、魔獣や森の恵みを得ている村を狩人及び自然地区に分けられ、二つの村の間つまりこのテントの場所には領主屋敷、またその前には行政地区、農産地区、狩人及び自然地区の南には商業及び職人地区を作り、大きな街になされるおつもりです。また、村長のお二人には各地区の地区長をしていただく予定です。ここまでで何か質問はありますか?」


 コーベスがそう問いかけると村長ではなくついて来ていた六人の中から狩人、森の恵みの村の方から質問がきました。


「すみません、よろしいでしょうか?」


「はい、ラグネルさんどうぞ」


「コーベスさん、この街割りには畑、畜産の村の方が更に大きくなるようになってますがそれはどうしてでしょうか? 先日、領主様が視察に来られた際に、私たちの村に何か落ち度でもあったのでしょうか?」


 この質問はもちろん想定内でございます。コーベスは淀みなく答えました。


「いいえ、ラグネルさん。何の落ち度もございませんでしたよ。こちらの村の規模が大きくなったのは、移民との関係があります。人が増えるという事はそれだけ食料の生産も必要となって参ります。また、領地以外への輸出もシュヴァルト子爵閣下はお考えです」


「なるほど、理由があるのは分かりました。が! それでは我々は納得が行きませんっ!! 我らの村の方も多少は広くなっておりますが、それにしても畑、畜産村の方が広がりすぎです!!」


 ああ、こういう方も居られますよね。仕方なく私は口を挟む事に致しました。コーベスに目で合図を送ります。


「ラグネルさん、それについては子爵閣下が自らご説明くださるそうだ。清聴するように」


 ラグネルさんが頷くのを見て私は椅子から立ち上がりました。私はまだ僅か十八歳の若造でございます。いくら貴族で立場が上だとしても年上の方からすれば命令されるのは面白くないでしょう。

 しかしそれでも領都として発展していく為には必要な措置ですのでここで納得していただけねばなりません。

 立ち上がり、上から見下ろす事で私の立場を考えて貰います。


「街割りについては全て私が決定致しました。皆さんの気持ちは分かりますがこれが最適解だと思っております。畑や畜産についてはこれまでよりもより多くの作物などを生産しなければ追いつかないという試算が出ております。それについてはご理解いただけているようですので説明を省かせて頂きます。それで、狩人、森の恵みの村の方ですが資料にあるより広くして人を増やすと森の恵みがやがて枯渇してしまうからです。これからも皆さんは森の恵みを収穫していただかなければなりません。けれども枯渇させてしまっては元も子もないという事になりませんか?」


 私の言葉にラグネルさんは村長の方を見ます。


「領主様、それでは領主様は決して畑、畜産の村の方を贔屓している訳では無いのですね?」


 村長の言葉に私は頷き返して言葉を発します。


「贔屓はしておりません。皆さんにはこれまで通りの生活を続けて頂く為にこのように考えて作った街割りでございます。突然、私のような若造が領主となってやって来た事に不満を覚える方もいるでしょうが、私は二つの村を中心に考えて領都を建設しようと思っております。また、狩人、森の恵みの村の方の中には木工細工が得意な方も多く居られるご様子ですので、その方たちには職人として後継者を育成して頂くつもりもございます。その為に職人街はそちらの村の方に近い場所に選定してあるのです」


 私の言葉を噛み締めるように聞いておられた村長は連れてきた三人を見て頷かれました。三人の方も頷き返しておられます。


「畏まりました。我らはこの街割りに何の不満もございません!!」


 四人からそのようにお返事を頂きホッとしました。

 畑、畜産の村の方たちからも了承を頂き街の建設を開始する事に決まりました。本当に良かったです。


 さて、それでは私はこれから重大な事を決定しなければなりません。


 ハルビルト子爵家の王都屋敷に戻った私はサーリャが学園から戻ってくるのを待ちました。戻ったら知らせて下さいとコーベスには伝えております。

 コーベスはシュヴァルト子爵家の家令兼執事として細々な問題をお願いする事になっております。が、現状では私にはコーベスしか部下がおりませんので雑用もお願いしてしまっております。

 早めに雑用を熟してくれる者を雇う必要がありそうです。このままではコーベスが過労死してしまいます。


 そのように思案しておりましたらサーリャが学園より戻ったとの知らせがありました。私はサーリャに自室に訪ねても良いかとの連絡を入れて貰います。


 了承してくれたようなので急ぎサーリャの私室に向かいました。


「サーリャ、戻ったばかりですまないね」


「クロス兄様のご用事ならば何を置いてもお聞き致しますわ」


「有難う、この前のクロスナイト公爵家からの手紙の返事なのだが……」


 私がそこで言葉を切るとサーリャの顔に不安がぎりました。ああ、失敗しました。そのような顔をさせたかった訳では無いのです。私は慌ててポケットから用意していた物を取り出してサーリャの前で片膝をつきました。

 そして、


「サーリャ・クロスワイト令嬢、私、クロス・シュヴァルト子爵からの求婚を受けていただけますでしょうか?」


 そのように尋ねるとサーリャの目から涙が溢れて、しかしとびきりの笑顔になり、


「はい!! クロス兄様!!!」


 私に抱き着きながら了承してくれました。こうして私はかけがえのない婚約者を得ることが出来ました…… 


 今度こそは間違えない様にしようと固く心に誓いましたのは言うまでもありません。

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