子爵家の嫡男ですが婚約破棄されました

しょうわな人

第1話 婚約破棄の件

 皆さん、初めまして。


 私の名前は今世ではクロス・ハルビルトと申します。この世に産まれてから十八年が過ぎました。


 そんな私ですが実は前世の記憶という物を持っております。が、前世の自分の名前は分かりません。温かい家庭に産まれ、高校卒業後に就職して職場で知り合った可愛らしいお嬢さんと結婚して、三人の子宝に恵まれ、五十八歳まで幸せに過ごしたのは記憶しております。


 前世の妻や子供たちの名前も記憶にはありませんが幸せに暮らしていたのは確信しております。


 さて、そんな私ですが現在は婚約者であるレミー嬢から婚約破棄を言い渡されております。 


「オーホッホッホッ! 貴方とはこれまでですわ! ワタクシ、真実の愛に目覚めましたの! ですので貴方との婚約は破棄させていただきますわ! ワタクシ、コチラに居られますハロルド様と新たに婚約する事になりましたの! 慰謝料? ワタクシが払ってもらいたいぐらいですわ! 何のお咎めも無しで婚約を破棄して差し上げますのよ、有り難く思いなさいませ!」


 う〜ん…… 私自身は慰謝料などと言ってないのですが勝手にそんな事を言い出しましたよ。

 それにしても私がレミー嬢に何かしたのでしょうか? 全く記憶にはありませんが。


 ちゃんと婚約記念日には花やアクセサリーをお贈りしてましたし、夜会などもエスコートだけでなくその都度にドレスをお贈りしてましたし……

 まあいつも着てはいただけなかったですが。


「貴方ときたらワタクシの婚約者でありながらデミータス子爵家のご令嬢と仲良くしておりましたわよね? ワタクシ、どれほど屈辱でしたか!」


 えっと…… デミータス子爵家のご令嬢って私の実の妹の事でしょうか? デミータス子爵家は私の生家であるハルビルト子爵家と縁が深く、何故かお子様に恵まれなかったので私の妹が養女として行った家です。デミータス子爵家の当主はハルビルト子爵家の当主である父の弟です。


 その事はちゃんとレミー嬢にもご説明した筈ですが? お忘れになっているのでしょうか?


「そうだぞクロス! 私を差し置いてデミータス子爵家のメイミー嬢と仲良くするなど以ての外だ!」


 ここでハロルド様まで理由のわからない事を私に言ってきました。ハロルド様はこの国の第二王子殿下であらせられます。

 とにかく下半身に節操が無い王族として、貴族間のみならず庶民にも有名でございます。


 殿下、先ほどのレミー嬢のお言葉ですとレミー嬢とご婚約なされるんですよね? それで他の令嬢の名前を出して自分を差し置いて仲良くするなと言われるのは不味まずいのではないでしょうか?


「まあ!? 何を仰っているのハロルド様! ワタクシが貴方様の婚約者ですわよ!」


 ほら、レミー嬢がお怒りですよ。ジッと殿下の目を見つめて怒っておられますよ。


「ああ!! そうだった!! レミー嬢! 私は君が居れば他の令嬢などいらない!!」


「そう、それで良いのですわハロルド様」


 何やら殿下の目の色が可怪おかしいように見えますが私にはもう関係ない事ですね。婚約破棄されようとしておりますし。


 それでも私も家の名誉の為に身の潔白は証明しておかないといけません。まあ、この場に居られる他の貴族子女の方々は私とメイミーの関係を十分にご存知ですが。公の場で声に出して言っておかなければ何も言わなかったではないかというツッコミの元に私や私の家が悪者となってしまいますので。


「レミー嬢、以前にもご説明したかと思いますがメイミーは私の血の繋がった妹でございます。他家に養女として出た身であっても妹である事に変わりはございません。私は兄としてメイミーに接していただけで、男女の仲などで無いことはこの場に居られる方々が保証して下さいます」


 理路整然とした口調で私はレミー嬢に説明をしたのですが、どうやら話は通じないようです。

 

「呼び捨て!? まさか既にそのような親密な間柄だなんてっ!? 人は許しても天上におわします神々はお赦し下さいませんわよ、クロス!」

  

 いや、レミー嬢、私を呼び捨てされましたけどそれは親密な間柄を表すのでは? とツッコミたい所ですが話が長くなりそうなのでグッと我慢します。


 そんな私たちの修羅場を眺めている周りの貴族子女の八割は私への同情の眼差し、一割は面白がっており、残り一割の方々はレミー嬢とハロルド殿下の味方のようです。


 さて、私は家の名誉の為にちゃんと言葉に出して言いましたのでここらあたりでこの茶番劇から退場させていただきましょうか。


「レミー嬢、婚約破棄についてですが婚約は家同士の約束事でございます。なので後日に私の父から正式にレミー嬢のお父君宛に連絡を入れさせていただきます。それでは、話は終わりという事で失礼します」


 私が婚約破棄を受け入れるという返事をするものと信じていたのでしょうか。レミー嬢もハロルド殿下も私の言葉に呆気に取られているようです。


 私はそのすきに学園の卒業パーティーを抜け出しました。さて、家に戻り父上に報告せねばなりませんね。


 まあ私としましてはあの場で婚約破棄して下さって有難うございますとレミー嬢にお礼を言うのを必死で堪えていたのですが、それとこれとは話が別でございますからね。

 家同士の決まり事、つまり当主同士で決められた事を当事者とはいえその子である者たちが勝手に決めれるものでは無いのです。

 その辺りの事も分からないレミー嬢はこれまでどのような教育を受けて来られたのでしょうか?


 婚約者ならば知っているだろうって?


 いえ、私とレミー嬢の婚約は学園入学(十五歳)と同時でしたし、本日の卒業までほとんどを学園で過ごしていた私はレミー嬢がどのように教育を受けて来られたのかは知らないのです。


 そもそもこの婚約もレミー嬢のお父君であるカーラン伯爵が私の父に泣きついてきたのだと聞いております。カーラン伯爵家は三姉妹でレミー嬢が長女ですので伯爵家を存続させるにはレミー嬢に婿養子を迎えるか、それとも他の親族から養子を迎えるかしか手段が無かったのです。

 これはサーヴァン王国の貴族法により定められている事ですので伯爵家存続の為に白羽の矢が私に立ったのです。

 伯爵が言うにはこれまでレミー嬢の周りには何でもハイハイと言うことを聞く者しかいなかったそうです。けれどもたまたまですが我が家に仕事の件でレミー嬢を仕方なく連れてやって来ていた伯爵は私がレミー嬢の言うことを聞くことなく素気なくあしらう様子をご覧になったようで、後日ではありますが私の父に婚約者として私を指名してきたそうです。

 私も貴族として生きてきましたので愛ある結婚などは夢見ておりませんでした。なので父上が伯爵からの頼みを渋々と受け入れられ、私に申し訳なさそうに言ってこられた時はお気になさらずにと逆に元気づけたほどでした。


 また私はハルビルト子爵家の嫡男ですが、男子であるならば後継は嫡男で無くとも良い(貴族法)のでハルビルト子爵家は私の弟が継ぐ事に、私とレミー嬢との婚約が決まった後に決まりました。既に王家にもその旨を届け出ております。


 なので私としては婚約破棄されたので実家に戻るというわけにはいかないのですが…… 


 前世の記憶がございますので私としては庶民として生きていくのに何ら抵抗は無いのです。むしろ、庶民として暮らしたいとすら思っております。


 十八年かけてこのような言葉遣いとなっておりますが、本当はもっと砕けた口調で話したい気持ちがあります。まあこの口調で十八年も過ごしてきましたので今さら無理でしょうが……


 さて、父上は何と言うでしょうかね。それにカーラン伯爵はどうされるでしょうか? まあ私としてはすんなりと婚約破棄になれば良いなという思いではありますが。


 これから暫くの間は私の周りが少し騒がしくなりそうですが何とか乗り越えて見せましょう。

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