妹を邪神にしたくない

あの後すぐに、オリガミは、黒田を介して議員に役所への圧力をかけるのをやめさせた。土田さんへの「土地を黒田エステートに売れ」という圧力だ。


黒田は簡単に素直に言うことを聞いたらしい。ちなみに彼は既に、メンタルがボロボロになっているとのこと。オリガミ、今度はいったい何をやったんだろう?怖くて聞けない。


オリガミは俺の幸せを幸福関数としてるから、俺が知ってショックを受けるような方法は使ってないはずだ。……使ってないよね?信じてるぞオリガミ。


なお、今回の黒田の更生については、俺自身は一切介入しないことにしている。これは、「よいこ保育園」と呼んでいる自動更生箱庭施設が、本当に俺の手を介さずに自動で更生プログラムを完遂できるかどうか、その実証実験も兼ねているからだ。オリガミと「よいこ軍団」だけでどこまで人を変えられるのか――そのテストケースとして、黒田の更生を見守ることにしていた。


まあ、今までもほとんどのことはオリガミがやっていたし、うまくいくだろう。あまり心配していない。


土田さんから連絡があったのは、そのすぐ後のことだった。


※※※


土田さんの上司も、議員の横やりには内心うんざりしていたらしく、すぐに「好きに売っていい」との連絡が入ったそうだ。理不尽な圧力についても謝罪があったらしい。やっぱり中間管理職は大変なんだろうな、としみじみ思う。


そして今、俺は土田さんのご自宅を訪れていた。これが最後の土地売買交渉だ。


契約書にサインを終え、土田さんとしっかりと握手を交わす。


「これで無事に契約成立ですね。本当にありがとうございます!」


「いえいえ、こちらこそ。いやー、タワマンに住める日が待ち遠しいですよ」


「ご近所さんも同じタワマンに引っ越す方が多いので、きっとすぐ馴染めますよ」


「子供も幼馴染の友達と離れ離れにならないみたいで、うれしがってますよ!」


うんうん。やっぱり、幼馴染と一緒にいられるのは大事だよな。俺も、千穂が遠くに引っ越すなんて考えたくもない。


こうして、俺の自宅がある区画は、すべてドールハウスの所有となった。


今回も色々あったけれど、無事にすべてがまとまって本当によかった。これでようやく研究所の建設に本腰を入れられる。やるべきことは山積みだけど、一歩ずつ着実に進めていこう。


※※※


ただ、一つだけ心に引っかかることがあった。


「あの議員、このまま放っておいていいのかな……」


黒田から裏金を受け取り、役所に圧力をかけていた議員。調べてみると、長年議員を続けているベテランらしい。きっと、これまでにも多くの人を不幸にしてきたのだろう。


とはいえ、こいつは直接俺や俺の大切な人たちに危害を加えたわけではない。「よいこ保育園」に送り込みたい気持ちはあるが、オリガミの管理者として、自分のポリシーは曲げたくない。自分の気に入らない人間を片っ端から「よいこ保育園」に放り込むようになったら、それはもう独裁者だ。絶対に越えてはいけない一線だ。


そんな俺の独り言に、オリガミが静かに反応した。部屋に涼やかな声が響く。


『お兄様、土田さんに圧力をかけていた議員のことですね?』


「ああ。放っておいたら、また誰かが被害に遭いそうでさ」


『私としては「よいこ保育園」に送って、更生させてしまいたいのですが、お兄様的にはそれは駄目ですよね?』


「うん。俺の身近な人に手を出したわけじゃないからね」


『残念です。議員のような人間は、手駒としても便利なのですが……』


「俺もそれは思うんだけどさ。ただ……変な正義感って危険だと思うんだよ。『地獄への道は善意で舗装されている』って、ことわざあるじゃん?あったよね?海外のことわざだったかな?とにかく、俺はオリガミに邪神になってほしくないんだよ」


※※※


オリガミはしばらく静かに黙っていたが、やがて穏やかな声が響いてきた。


『……お兄様が私の管理者で本当に良かったです。きっとお父様も、同じことをおっしゃると思います』


その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。思わず言葉が詰まった。


「父さん……そうだな、ありがとう。俺、ちゃんとできてるかな……」


最近は忙しさにかまけて、父さんのことをあまり思い出していなかった事に気づく。でも、俺が父さんの遺志を引き継げているのなら、本当に良かったと思う。自分の中に父さんから教わった価値観が根付いていると知れて、嬉しい気持ちになった。


そんな中、オリガミが続ける。


『では、彼には議員をやめていただきましょう。実は、黒田が、あの議員の弱みについてのデータを持っていました。』


「議員の弱み?」


『はい。おそらく裏切られた時のために備えていたのでしょう。自衛の一環ですね。当然の行為でしょう。』


『このデータをネットやマスコミに流します。きっとすぐに辞職に追い込まれ、議員生命も終わるはずです。』


「それくらいなら……国民の義務ってことでアリかな……?じゃあ、オリガミ。頼んでもいい?」


『はい、お兄様。お任せください!』


※※※


オリガミはすぐさま行動に移したようだ。


黒田が握っていた議員の弱みのデータは、瞬く間にネット上へと拡散され、SNSやまとめサイトで大きな話題となった。マスコミもすぐに飛びつき、連日ニュースで大々的に報じられた。


世間の注目が一気に集まり、議員は釈明会見を開く暇もなく、あっという間に辞職へと追い込まれた。その後、捜査当局も動き出し、逮捕されるまでに一週間もかからなかった。


オリガミが敵じゃなくて本当に良かった。心の底から思う。


……なんだか、毎回同じことを考えている気がする。でも、仕方ないだろ?だって、オリガミ怖いし。






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