#29 義ウイルス
思わず周囲を見回した。
このテントには俺だけだし、離れた場所を確認できる
深呼吸をして、改めてノートPCを開く。
視界に入る大股開きの股間画像から目をそらし気味に確認を続ける。
様々なアカウントが「その画像」、または一部加工したものをアップしているのを、一つずつお気に入り登録しているようだ。
というか
ちょっと見直したらコレだよ。
しかしこんなデジタル・タトゥー、フランスの聖女様はしんどかったろうな。
削除できないかな?
まずは自分の――というか田平のSNSだけど――投稿してすぐに削除を繰り返し、送信時の電子的な動きはなんとか把握できた。
ただそれを俺の『交信』で再現しても、その送信情報にはどうやら権限的な情報も含まれているようで「他人の投稿を削除する」ことまではできなかった。
せめてSNSのサーバーが
俺の
そういえば
逆に内側で松明に
作る送信イメージは、『投稿の削除』ではなく『投稿の削除を実行するコンピューターウイルス』だ。
それから212分が経過した。
ウイルスのプログラム的な構造に苦心している間に夕飯の時間になってしまった。
呼びに来た声に「遅れて行きます」と答えた後で、何の気無しに送った送信イメージが突破口になった。
『自動的にウイルスを作ってくれるプログラムがあればいいのに』という、ボヤキに似た思考を『送信』してしまったことが。
ノートPC側にものすごい負荷がかかったのだ。
つまり俺の思考が形になったか、もしくはなろうとしたってこと。
すぐにそれを『解除』するイメージを『送信』する。
きっとこのノートPCの性能ではそれを処理できないだろうから。
ただ糸口はつかめた。
『送信したURLの投稿を削除するウイルスイメージをネットワーク上に構築する』イメージを『送信』してみる。
もちろんそのままだと危険なので、とある秘密の『合言葉』を一緒に送信した場合にだけ反応するようなイメージも組み込んである。
うわ、ノートPCの電池の減りが早い!
慌てて充電を開始する。もちろん俺の
「
田平の声で我に返る。
集中していたせいであれから36分も経っていたことに気づかなかった。
「あ、すみません。ちょっと考えことしていて……これから行きます」
田平のSNSアカウントを実験場所にしていることもあって焦りはしたが、
「おっけー。でね、食事終わってからでいいんだけど……SNS禁止になっちゃって暇だからさ、女性陣誘ってトランプしようって話になってさ……ほら、俺たち民間人女性との接点が微妙というかさ……」
ここまで来ると清々しさまで感じる。
少なくとも俺にはない行動力。それ自体は純粋に凄いとは思うけど。
ちなみにこういう「休憩時間」は、
兵士を大量に投入している他国の
「わかりました。声かけるだけかけてみますよ……来てくれるかどうかは別なので期待しないでくださいよ?」
「うわ! 詩真様大明神! 大好き! かっこいい!」
頼むから様はやめてほしい。フッコ先輩だけでも持て余してるってのに。
「そういうこと言うと橋渡ししませんよ?」
「あっ、ごめん! 詩真くん、ほんと後生だから……」
そんな掛け合いの間にノートPCの電源をいったん落とし、俺は食堂テントへと向かった。
送信がなんとか終わったのだ。
今夜の夕飯はカレーだった。
頼みもしないのに
というか皆さん、なんで食事終わって手持ち無沙汰そうなのにこんなにも残って――ああそうか。トランプ大会を待っているのか。
ストイックに筋トレを繰り返す
満面の笑みのお兄さんたちに見守られながらのカレーは本当に飲み物だった。味もわからんし時間もかけにくいし。
ということでさっさと食べ終えた俺は姉貴たちのテントを訪れた。
女子側の民間人は二人一組で一つのテントを使用していた。
男子側は民間人が俺一人なのでテント独り占めさせてもらえているのか。色んな意味で特別扱いしてもらえてたんだな。
組み合わせは姉貴としづさん、フッコ先輩とクソ
「詩真……つ、疲れてないか? 探索、大変だったんじゃないか?」
姉貴がなんだかぎこちない。
まあ俺が姉貴と一緒の班になりたくないと言ったことは伝わっているだろうしなぁ。
「詩真くんは凄いんですよ! ムードメーカーで、色んなこと知ってて、かっこよかったんですから!」
しづさん、フォローしてくれている――ということが、今の俺には理解できる。
ずっと引きこもっていた中学時代なんかは「万能な姉貴とミジメな俺」って構図の中に自ら収まっていて、そこから思考を動かそうとしなかった。
だけど俺たちをニュートラルに扱ってくれる「大人」な人たちの中で、俺もようやく狭い思考の小部屋から抜け出せた気がする。
今はもう姉貴に対する理不尽な恨みや嫌悪みたいなものは消えている。
「姉貴……田平さんたちがトランプ大会でもどうですかって」
「いいですね! 七並べでダムしづと呼ばれた実力を見せてあげます!」
「私と一緒にトランプしてくれるのか?」
鼻息を荒くするしづさんに対して、姉貴がちょっと卑屈になっている?
俺から苦手意識が薄れた分、姉貴の側に変に出ちゃった感じ。
やっぱ俺の責任だよな。
「俺は……別に、姉貴がしたかったらトランプくらいいつでもやるよ。いつもの姉貴でいてくれよ」
姉貴の頬が少しだけ緩む。
「姉貴のせいじゃないし、あんまり気にすんなよ」
しづさんが俺たちを交互に見つめながら目をうるませているのが恥ずかしい。
「あと誤解しないで欲しいんだけど、トランプの話を持ちかけられる前からやっていた作業がまだ途中で、俺はそれを先に片付けたいから、先に始めておいてほしい」
姉貴の表情を見たら、参加しないとは言えなくてつい日和ってしまった。
姉貴がフッコ先輩たちにも声をかけたために、俺は胴上げされかけた。
そこへさらに自衛隊未婚女子の皆さんも参加し、異様にテンションの高い大トランプ大会が開催されたのだが、俺は自分のテントへ戻ってさっきの続き。
『送信したURLの投稿を削除するウイルスイメージをネットワーク上に構築する』で構築されたウイルスへ『送信』で田平コレクションの何個かのSNSを指定してみると、見事に削除された。
次に取り組むのは『ネット上でこの画像や類似画像を見つけたらそのURLページおよびリンク先の画像データのURLを指定して合言葉つきのデータを先のウイルスへ送信するウイルスのイメージをネットワーク上に構築する』イメージの『送信』だ。
言葉にするとやけに長いが、最初のやつより時間が3.1倍かかっただけで送り終えた。
あとはネットワーク上にこの義賊ならぬ義ウイルスが生成されて動き出すのを見守るのみ――ってタイミングでフッコ先輩がやってきた。
「すみません。トランプ大会ですよね?」
いったんPCを閉じてカバンへとしまう。確認は後でいいや。
「ううん、ちょっとイチャイチャしたくて」
フッコ先輩はテント入口のジッパーを勝手に下ろして中へ入ってきた――のを止めそびれたのは、今のセリフに一瞬フリーズしてしまったから。
### 簡易人物紹介 ###
★ 探索Aチーム、右回り隊
・
自衛隊員。男性。
・
主人公。現実より
・
自衛隊員。男性。探索隊B→Aチーム入り。色黒で元野球部キャッチャー。詩真のカウント係。既婚者。
・
自衛隊員。女性。マッチョ自慢で腹筋を触らせようとしてくる。歩測係。
・
フッコさん。亜貴の同級生で信奉者。タレ目の眼鏡美人(推定E)。詩真の境遇と趣味に理解と共感があり、告白された。
・
自衛隊員。24歳男性。詩真を拉致し日本のためにと殺しかけたが和解(?)し、今では鍛えようとしてくる。全然笑わない。歩測係。
・
自衛隊員。男性。ギョロ目。千島田のカウント係。オタクで、何かにつけ古いマンガやアニメのセリフを言ってくる。
★ 探索Aチーム、左回り隊
・
自衛隊員。女性。『治癒』の
・
母の元同僚。姉以上にご立派(推定J)な童顔ゆるふわ女子。
・
自衛隊員。女性。元ヤンの気配有り。しづのカウント係。
・
自衛隊員。男性。
・
詩真の拉致に加担した、顔のパーツが中央に寄っている丸顔の自衛隊員。26歳男性。無類のおっぱい好き(特技はカップ推定)。火志賀のカウント係。なにかと詩真に情報を流す。
・
自衛隊員。男性。おっとりした感じ。歩測係。既婚者。
・
自衛隊員。男性。趣味は自転車と水族館巡り。新若のカウント係。
★ 探索Bチーム
・
自衛隊員。男性。
・国館川
姉。羞恥心<探究心な姉。ご立派(推定G)。
・
元幼馴染(推定D)。話が通じない。すぐに変態呼ばわりしてくる。
★ その他の自衛隊の皆さん
・
探索者部隊の塔外現場指揮官。気遣い上手なナイスミドル。凄くいい声。
・
すらっとした長身で眼光鋭い眼鏡美人の三等陸曹。本来は広報担当。民間人への連絡係。
・
マッチョなお兄さん。陸上自衛隊のカレーに誇りを持っている。探索隊第二次参加人員。
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