第13話 穏やかな夜に
「……大丈夫か?」
龍哉くんが布団をかけてくれながら、僕の心配をしてくれる。
「うん。昨日よりは、ずっと落ち着いてるよ」
あくまで昨日よりは、だけどね!
でも、龍哉くんに心配をかけまくったのが堪えたのか、一人目の僕の想いもだいぶ落ち着いてる。
それに、どきどきはあるけど。
それ以上に僕にとって、龍哉くんの腕の中は安心できる場所なんだ。
龍哉くんが、僕を抱きしめて寝てくれなかったら、僕は身も心も寒さに震えて死んじゃってた。
……僕の体温調節のできなさは、それぐらい酷かったんだ。
僕が龍哉くんに抱っこしてもらって移動してるのは、甘えてるだけじゃなくて。
車椅子だと、体温調節ができなくてすぐに体調を崩すから。
それに、昔の僕は本当に心も弱くて……今もよわよわなんだけど。
人肌に触れていないと、胸がぎゅってなってすぐ駄目になっちゃう。
だから、龍哉くんはずっと僕を抱っこできるように鍛えてくれて。
ずっと僕の身体も心も守り続けてきてくれた。
何年も、一年中一日中ずっと、片時も休むことなく。
いつ体調を崩して、そのまま死にかねないぽんこつな僕を、気が休まることなく。
たった一人で。
……それが、どれだけ大変ですごいことなのかは、言葉で伝えられないぐらいだと思う。
でも、龍哉くんはそれを成し遂げてくれた。
そもそも、僕は異世界で一度死んじゃってる。
龍哉くんは異世界で僕を守れず失って、それでも想い続けてくれて。
魔王を倒したら願いを叶えるという、神様の言葉を信じて戦い続けて。
その魔王を倒すために、勇者だった僕の力が必要だったから、
想い続けてくれた僕のお墓を泣きながら暴いて、その骨を武器に加工してでも、魔王を倒してくれた。
そして、神様にもう一度会いたいと願ってくれたから、僕は今こうして生きてる。
……そして、龍哉くんはこの間まで、ずっとその罪の意識に苛まれ続けてた。
毎晩、腕の中で僕が息を引き取る悪夢を見続けて。
時折、僕の顔が朽ちた僕の骨に見えながら。
それでも、僕のために身も心もささげてくれた。
……僕は、どうしたらこの恩を返せるのかな。
どうしたら、龍哉くんに報えるのかな。
そう思うこともあったけど。
自分で言うのもなんだけど、龍哉くんは本当に僕が笑うとうれしそうに笑ってくれる。
僕が龍哉くんに身をゆだねると、誇らしそうに受け止めてくれる。
龍哉くんの目には、僕しか映ってない。
僕だけで、幸せだって熱のこもった目を向けてくれるんだ。
それは、僕にとっても幸せで。
僕もそれでいいやって、正直思うんだけど。
でもね。
僕は、誰かに頼らないと生きることもできないへっぽこでぽんこつでよわよわで。
頼る人を見つけるために、周りの人はちゃんと見るようにしてるんだ。
まぁ、基本的に全部龍哉くんなんだけど……。
それでも、龍哉くん以外にも僕を助けてくれる人はいたし。
龍哉くんを助けようとしてくれてる人も、いるんだよ。
僕が生きるのにギリギリすぎて、他の誰にもゆだねられなかったから、ほとんど誰にも頼らなかったのは知ってる。
でもさ。
僕も、前よりずっと元気になったよ。
龍哉くんも、前よりずっと気を抜けるようになったよね。
だから、龍哉くんにも知ってほしいんだ。
僕たちを見てくれる人は、いっぱいいるんだって。
僕のために、全部を犠牲にしてくれた龍哉くん。
必死で、余裕がなくて、僕だけを熱をもって見つめてくれる龍哉くんは大好きだよ。
でも。
司書じいにからかわれて不貞腐れるのも、宵ちゃんに塩対応されてしょんぼりする龍哉くんも大好きなんだ。
今日みたいに、湊くんと仲良く話してる龍哉くんも、大好きなんだよ。
もっと、色々な龍哉くんが見たい。
僕は、欲張りさんだからね。
龍哉くんの全部が見たいんだ。
「ねぇ、龍哉くん」
「どうした?」
僕は、龍哉くんの胸に頭を押し付ける。
僕が一番安心する音が、龍哉くんの鼓動が心地いい。
「湊くんから借りた小説、読んでみた?」
「あぁ、少しだけだが」
無意識に、僕を抱きよせて頭を、背中を撫でてくれるのがうれしい。
ドキドキが収まって、安心感で胸がいっぱいになっていく。
「俺の経験した異世界より、なんというか……」
「派手だった?」
「あぁ、そんな感じだ」
魔法とかないからね、僕たちの異世界は。
魔力という不思議パワーで動く不思議な道具や生き物の世界だったし。
「でも、少し懐かしい気がしたよ」
「そっか」
穏やかで、いつも通りのようで、でも少しだけ弾んでる声。
小学校の頃に読んだ漫画が最後で、その記憶だって300年の間に風化しきった龍哉くんには、楽しめたみたいだ。
また一つ、僕の知らなかった龍哉くんが見えて、うれしい。
「今度、漫画とかも買いに行く?」
「……そうだな、いいかもな」
もう、無理しなくていいんだよ。
頼れる人が、従魔さんがいっぱいいるんだよ。
だから、龍哉くんも、もっと楽しんで。
僕に、うれしそうな龍哉くんをいっぱい見せてほしい。
「だったら、湊くんに頼ったら?」
「そうだな。湊なら安心できる」
少しずつ、人に頼ることを覚えてね。
頼ることなら、僕でも龍哉くんに教えられるから。
人に頼るのは、僕の本当に数少ない特技だからね!
あ、買い物で思い出した。
「そうだ、龍哉くん」
「どうした?」
今まで必要なかったから、すっかり存在忘れてたんだけど。
「今度、スマホ買いにいかない?」
「スマホ、か」
だって、連絡する相手はずっと触れ合う龍哉くんしかいなかったし。
僕も龍哉くんも、スマホをいじって遊ぶ余裕なんて無かったからね!
だいぶ前に陽菜ちゃんに指摘されたの忘れてた。
家にパソコンはあるけど、調べものに使ってただけだしね。
「そうだな、買うか」
「僕、機械はよくわからないし、お揃いがいいな」
同じだったら龍哉くんも教えやすいと思うし。
……あとお揃いは純粋にうれしい。
「そうするか」
「……うん」
暖かくて大きな龍哉くんの手の感触が心地よくて、目がとろんとしてきた。
あとは、なんだっけ……。
そうだ、これだけ……。
「龍哉くん……」
「なんだ、沙穂」
僕は、ぎゅっと龍哉くんの胸にしがみつくと。
「おやすみ、龍哉くん……」
「あぁ、おやすみ、沙穂」
龍哉くんの鼓動を子守歌に。
僕は、心地いい眠気を受け入れて。
そのまま世界一安心できる場所で、眠りについた。
こうして、龍哉くんが安心するぐらい健やかでいることが。
僕が君に返せる最初のことだなって、思いながら。
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