第3話 三人分の僕
世の中には似た人が何人かいるっていうけど。
僕の場合、少なくとも僕を含めて三人の僕が居た。
うん、過去形なんだ。
実は僕は、三人目。
一人目は、地震の時に龍哉くんと一緒に異世界に召喚された僕。
勇者の僕と、巻き込まれた龍哉くん。
地震で瓦礫につぶされてた僕と龍哉くんは、その召喚で救われて。
魔王を倒したら、願いを叶えてくれるって召喚の途中で神様が約束してくれて。
どうせ死んでた命だし、龍哉くんと一緒なら大丈夫!
ってことで、王様が選んだ仲間と一緒に大冒険!
……してたんだけど。
ある日、魔族の罠にはめられて。
僕を庇って、龍哉くんが死んじゃった。
龍哉くんを失って、龍哉くんのお陰で拮抗してた戦いはぼろぼろで。
仲間も全員死んじゃって、僕が最後に一人残った。
そこで、僕は神様からもらった異能を暴走させて。
近付くものすべてを死なせる死神に堕ちた。
そのあと、強すぎる魔王を倒すために。
最終的に世界そのものを死なせることで、魔王を倒すことができた。
それで、僕は神様に「龍哉くんが死なない世界をやり直して」ってお願いしたんだ。
頭が悪い僕なりに、必死で考えた結果だったんだけど、正直もっといいお願いあったと思う。
そして、これが大間違い……とも言えないんだけど。
少なくとも、一人目の僕は、やり直される世界と切り離されて。
全部死んでしまった世界に一人取り残された。
そして、二人目の僕につながる。
二人目の僕は、一人目の僕と途中までは一緒だった。
一人目の記憶を継いでるわけじゃないけど、このままだと龍哉くんが死んじゃうのは伝わってて。
だから魔族の罠から龍哉くんを遠ざけようと、わざと大ゲンカして。
龍哉くん抜きで、魔族に立ち向かって。
まぁ、勝てるわけもなくて、追いかけてきた龍哉くんの腕の中で僕は息を引き取った。
ただ、ここからが一人目の僕の大誤算。
龍哉くんは、僕が思っていた以上に僕のことを大事に思っていてくれたみたいで。
人間を辞めて、最終的に厄災と呼ばれるでっかい邪龍になってまで魔王を倒そうとして。
300年間戦い続けて、勇者でしか倒せない魔王を、二人目の僕の遺骨で作った短剣で倒しきった。
……龍哉くんは、僕を助けられなかったことを悔やみ続けて、悪夢にうなされ続けて。
そのうえで、僕の遺骨を冒涜したって後悔にさいなまれ続けても、「沙穂にもう一度会いたい」
その願いのためだけに戦い抜いて。
神様にその願いを叶えて貰った。
二人目の僕の遺骨の短剣を持ったまま。
そして、ここで三人目の僕!
召喚前の身体に魂を戻してもらった龍哉くんが、瓦礫につぶされてる僕を助け出してくれた。
召喚前だから、僕には何の力もない最弱の僕だね!
それで、地震で左足を失った僕は、元々よわよわだったのが、一人だと生きられないぐらい弱くなって。
龍哉くんが、生活の全部を僕のために投げ捨てて、僕のお世話してくれた。
そのおかげで、僕は今日まで生きてこれたし、心身ともに龍哉くんなしじゃ生きれなくなった。
……実は龍哉くんが、僕を助けられなかった後悔と、僕の遺骨を冒涜したって罪にずっと苛まれていたって知ったのは、本当に少し前の話。
あと、神様がオマケで残してくれた龍哉くんの異能の“アイテムボックス”!
トラウマでずっと開けなかったんだけど、色々あって使えるようになって。
何故か入っていた、異世界での龍哉くんの身体の厄災さんが復活したり、大変だった!
ここで僕の遺骨の短剣が大活躍して、厄災さんに残った龍哉くんの意思と一緒に二人目の僕の魂は昇天。
これで大団円!
……ならよかったんだけど。
ここで一人目の僕に戻るんだ。
どうやら、龍哉くんが魔王を倒したのは神様にとってすっごいうれしいことで。
なんか、異世界を作り直す!ってことで、
取り残された一人目の僕が邪魔になったらしくて。
三人目の僕のいる世界にぽーんと放り出された。
でも、死神な僕は、触れるものを終わらせる力があって。
それで色々と騒動を起こしちゃうんだけど……。
まぁ、元が僕だから能天気に「帰ってこれたー!」って散策してるだけなんだよね。
ただ、「死なない龍哉くん」という願いと、「死そのものの僕」が食い違って。
会いたい龍哉くんには見えない見られないとかいう想定外があったりして。
もうやだー!って能力暴走。
それを、三人目の僕と龍哉くんが止めに入って……。
ここでも大活躍した僕の遺骨の短剣とか、なんやかんやあったんだけど。
最終的に、一人で消えようとしてた一人目の僕を止めて。
一人目の僕の全部と、二人目の僕の力の一部を、三人目の僕が受け入れて。
今のこの、オッドアイな八星沙穂、最終形態になったってわけ!
うん、自分でもだいぶ何がどうしてこうなったって思うよ。
三人分の僕が集まっても、辛うじて一般人未満にしかパワーアップしない僕の弱さを嘆いたりもしたけど。
問題はね。
一人目の僕は、一人でずっと龍哉くんを想いながら待ってたの。
龍哉くんが300年間戦い続けてる間も、ずっと。
龍哉くんの遺骨の短剣を撫でて、思い出を語るだけの数百年をずっと。
そして、自分の所為で龍哉くんが300年も苦しんだのを悔やんでて。
それでも、今僕と一つになって龍哉くんと一緒に暮らせるようになったのを喜んでる。
……喜んでるなんてもんじゃないね。
ずっとずっと諦めてなお、夢見続けた世界なわけだよ!
元々龍哉くんが世界一大好きだった僕にだよ。
そこに、僕に負けないぐらい龍哉くんが大好きで、僕と違って龍哉くんに飢えてた僕が一緒になった。
……もうね。
僕、心臓が爆発して死ぬんじゃないかってぐらい大変なことになってる。
これ以上ないぐらい好きだったのに、それ以上になっちゃったからもう大変だよ!
今までは慣れてたからよかったけど、その慣れも上書きされて。
今、必死で取り繕ってるけど……。
友達にばればれってことは、龍哉くんには絶対気付かれてるんだよぉ!
今はみんながいるからいいけど……二人っきりになったら、どうなっちゃうんだろうね。
龍哉くんのお弁当箱を前に、僕は深いため息をするのでした。
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