第十四章:境界域(インターフェース)

扉が、静かに開いた。


目の前に広がるのは、どこまでも白い空間だった。

空も、地面も、境界もない。

——ただ、虚無のような白。


「……何も、ないの?」


一歩、踏み出す。靴の音さえしなかった。

ただ、音のない空間に、体だけが滑っていくような感覚。


すると、視界の中央に、“揺らぎ”が現れた。

空気が波紋のように震え、そこに“誰か”が立っていた。


「……あなたは?」


揺らぎの中に浮かんだ影は、言葉というより、意識に直接響くように語りかけてきた。


「ようこそ、境界領域きょうかいりょういきへ。

ここは、“現実”と“仮想”の狭間はざま

あなたが“本当に望むもの”を試される場所です」


「試される?」


「あなたは、数え切れないほどの“調整”を受けてきた。

忘れ、書き換えられ、繰り返し、“適応”させられてきた。

それでも——“あなた自身”は残り続けた。

他人が与えた記憶ではなく、忘れられずに残り続けた“芯”——それが、あなたをここへと導いた」


「……私の“しん”?」


私は、自分の手を見た。


何度も上書きされ、消され、それでも残った記憶。

それは、日記の手触りであり、実果の声であり、

——“私が私であろうとする意志”だった。


「ここから先に行けば、私は“戻れない”んですよね?」


影は答えない。ただ静かに揺れている。


「でも、もう戻る意味もない。

現実が仮想でも、偽りが真実でも——

私の“選択”だけは、私のものだから」


私はもう一歩、足を進めた。


その瞬間、周囲の白が色づき始める。

視界に、静かなひびが走る。世界が音もなく崩れ、次の瞬間、新たな秩序ちつじょで再構成され始めた。


見覚えのある街。

かつて暮らしたことのある校舎。

でも、すべてが“少しずつ違う”。


まるで——現実の“レプリカ”。


私は振り返った。


誰もいないはずの背後に、ふっと気配を感じたからだ。

無音のなか、白いワンピースの少女が現れた。


白川実果だった。


「……ありがとう。あなたが“ここ”にいてくれたから、私は来られた」


実果は、微笑むようにうなずいた。

その姿が、徐々に薄れていく。


「私は、きっと、もう戻れない。でも、あなたは——」


声だけが、空に響いた。


そして私は、歩き出す。


——その一歩が、仮想か現実かは、誰にもわからない。

けれど、

それを“自分で選んだ”という感覚だけは、確かにあった。

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