14話 双子故に
「……ふふっ。やっぱりとても美味しいわ」
パスタを食べてご満悦な様子で静香さんが呟く。
時刻はお昼過ぎ。
俺と静香さんは今、パスタ屋で昼食をとっていた。
今日、俺と静香さんは集合した後、まずはこの辺りで一番大きな書店に行き、そして近くのカフェで好きな本について時間を忘れて語り合っていたら、気づいたらお昼時になっていた。
本好きという共通の趣味を持った二人が集まれば、こうなるのは自然だろう。
それから昼飯を食べようと、静香さんのおすすめでこの店にやって来たという流れだ。
今日の静香さんの服装は白のワンピース。
一見シンプルだが、清楚を体現したような美少女の静香さんと白のワンピースの組み合わせは、まさにベストマッチ。
普段ですら超絶美少女なのに、普段よりも更に可愛いとか良い意味でおかしすぎる件について。
「……佐藤君。もしかして、お口に合わなかった?」
手が止まっている俺を見て、静香さんは不安そうな表情を浮かべていた。
「いや、そんなことないよ。ほんとすごく美味しい」
「なら良かったわ。このお店は、前に明梨と一緒に来た時に初めて知ったの。それでとても美味しかったから、是非とも佐藤君にも食べてほしくて」
「そうだったんだ。連れて来てくれて本当にありがとう」
この辺りにはあまり来ないので、静香さんが教えてくれなかったら、このお店を知ることも足を運ぶこともなかったはず。
「あっ、映画って上映開始は一時間後だったよね?」
「そうね。だから、もう少ししたら映画館に向かいましょうか」
俺達はこの後、映画を観る予定だ。
元々その予定は無かったけど、丁度面白そうなラブコメ作品が上映していたので、静香さんの執筆の何か良い参考になるかもと思い、観ないか提案したところ静香さんが了承したという流れだ。
「楽しみだね。そうだ、静香さん。何か良いアイデアは思い浮かんだりした?」
「今のところはまだね。というより、遊んでいる時はあまりそう言ったことは考えないようにしてるの」
「えっ、そうなの?」
「佐藤君との時間を純粋に楽しみたいもの。だから、アイデアについては家に帰った後に今日の出来事を思い出しながらゆっくり考えるつもりよ」
誰にだって自分なりのやり方や考えがある。
それが静香さんのスタイルなら、俺はそれを尊重するだけだ。
「そっか。なら、引き続き思いきり楽しもうか」
「ふふっ。そうね」
それからお互いパスタを食べ終えたので、会計を済ませてお店を後にし映画館へと向かう。
ちなみに映画を観終わった後は、そのまま解散する予定だ。
「ねぇ、佐藤君」
映画館に向かっている途中、不意に静香さんがこんなことを質問してきた。
「佐藤君って……かなりモテるでしょ?」
「えっ……ど、どうしたの急に?」
なぜ静香さんがそんな事を尋ねたのかも、どうしてその考えに至ったのかも分からない。
「佐藤君って振る舞いや対応に余裕が感じられるの。だから、これまでモテてきたんじゃないかなって思って」
「いや、そんなことないよ。謙遜とかじゃなくて本当にモテないし、女子と関わった経験も本当に少ないよ」
「そうなの?」
静香さんは意外そうな反応を見せた。
……俺って、そんなにモテる雰囲気が出てるのだろうか?
「あーでも……そう思うと、静香さんのような
「……っ」
改めて考えると、モブキャラの俺がこうして静香さんと二人きりで遊んでいるのは、まさに幸運……どころか、もはや奇跡と言って差し支えないと思う。
「……」
顔を赤らめた静香さんが、無言で俺をジッと見ていた。
「……佐藤君。もしかして、私のこと口説いてるのかしら?」
「えっ……」
そんなつもりはまったくなかったので、誤解はちゃんと解いておこう。
「いや、俺はただ
「っ……や、やっぱり口説いてるわよね?」
「なんで!?」
そんなやり取りをしていると、目的地の映画館が見えてくる。
中に入ると、多くのお客さんで賑わいを見せていた。
特に学生の姿が多く見受けられる。
もしかしたら、同じ学校の生徒もいるかもしれないな。
……まぁ、仮にいたとしても別に気にするつもりはないけど。
しかし、そんな事を考えていた直後、気にせずにはいられない人物の姿が視界に映った。
「えっ……あ、明梨さん!?」
「あれ!? 佐藤君と静香!? うわー、すっごい偶然だねっ!」
まさか、明梨さんもここに来てたなんて。
ほんとにすごい偶然だ。
しかし、偶然の遭遇に驚いている俺の隣で……
「……」
静香さんは無言で明梨さんをただジッと見ていた。
全てが変わり始めたあの日の。
優哉と静香が初めて関わりを持った昼休み。
『静香……もしかして、何かあったの?』
双子だからなのか、彼女達は互い機微に聡い。
故に、明梨は静香の異変にすぐに気づいた。
故に、静香も当然気づいてしまうのだった。
「……ねぇ、明梨。もしかして、何かあった?」
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