第10話ゼニゲバ家~悪事のフルコース



それは、密やかな復讐の贈り物だった。



俺たちが集めたゼニゲバ家の悪事の証拠――


脱税、公金横領、裏金の運用、口利き、夜の店の経営、借金漬け商人の囲い込み…


まさに“悪事のフルコース”。



そして俺たちは、それをどこにも告発しなかった。


いや、どこにもではなく、“正義を装った一人の貴族”にだけ、そっと渡した。



その貴族の名は――ムジナ伯爵。


ゼニゲバ家と何代にも渡って遺恨を重ねてきた一族で、


表向きは慎ましい姿勢を保ちつつ、


その実、機を狙う執念深さで知られる。



「ゼニゲバ家を討つ証拠を渡したら、こいつ、絶対に黙ってられないだろう」


と、カタルパがニヤニヤしながら言っていたが、その読みは的中した。



俺たちは、ゼニゲバ家の家紋が刻まれた証拠資料とともに、


匿名の差出人名で「信頼ある筋より託された書状」を用意。


そこに、こう書き添えた。



「これは貴殿の“長年の屈辱”に対する、小さな返礼にすぎません」



こうして、火種は撒かれた。



そして数日後――王国の上層部は、かつてない騒ぎに包まれていた。



王の執務室には、連日連夜、他の貴族たちが詰めかける。


だが、誰もが口を揃えて言うのは「私の一族はゼニゲバ家と一切関係がない」「むしろ私はかねてより危険視していた」などといった、無責任な距離の取り合いだった。



おもしろいのは、昨日までゼニゲバの取り巻きとして忠誠を誓っていた連中すら、


今日は手の平を返して「ゼニゲバ家の手法は、いささか強引すぎましたな」などとぬけぬけと語る点だ。



誰もが王に「調査を進言」しようとした。


それは“正義の提案”ではない。


“保身の先手”であり、“好機に乗じた出世争い”だった。



「貴族ってのは、あれだな。泥水をすすってでも、勝ち馬に乗るんだな」


と、俺が言うと


パーシモンは苦い顔で、


「いや、泥水をすすってでも、自分だけは清く保とうとするのが貴族という生き物だ」と返した。



ゼニゲバ家は四方から切り崩された。


信頼していた者は皆、距離を取り、


縁故で押さえていた者たちは沈黙し、


家門は徐々に空洞化していった。



最終的には、王が「一時謹慎処分」を発表し、


ゼニゲバ家の財産調査が開始された。



が――この“謹慎”こそが事実上の終了宣告である。



血と金と権謀で築き上げた塔は、


こうして、貴族社会の“醜さの総力戦”によって崩れ去った。



俺たちの手は、あくまでそのきっかけをつくったに過ぎない。



あとは…勝手に堕ちていった。



なんとも、貴族らしい末路だと思う。



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