忙しくない
入院といえば彼女の付き添いが数十回。
ぼく自身は出産のときの入院しか経験がないから、入院患者というのは忙しいものだと思っていた。
出産のときはもうこれ以上ないほど苦しんで絶叫して尊い生命に号泣してぐったりしながら指導を受けておむつをみて測って授乳して色んなとこが痛くて痛くてウトウトしたら授乳して眠たいですよねぇと授乳室で出逢う戦友になりつつあるママさんたちと愚痴りながらウトウトしながら痛い痛いおむつをみて測って授乳してみたいな嵐のような思い出。
休む暇なんてないし退院してからも痛いしもう記憶も曖昧な体験。
呼吸して哺乳して出して眠っての赤子が可愛いすぎて死にそうと思ったことだけ覚えている。
彼女の入院の付き添いもなかなかだ。
毎回彼女の命がかかっているから、準備の段階から不備がないかと心配で心配で気が気ではないし、いろんな書類にサインしたり、痛そうだったり辛そうだったりする彼女への処置を見守るしかない。
付き添いで入院する人間の食事は出ないから常温で日持ちのするニンゲン用カリカリエサみたいな食料と水で過ごす。売店はあるけど毎食買いに行く暇もお金もないし、お弁当に耐えられる胃腸はそもそも持ち合わせていない。
給湯器や電子レンジもあったけど、院内感染を何度も経験して共有のものを使うのは早々に頭から外していた。
付き添いの人のベッドは病棟の誰に聞いたって不評の折りたたみベッドだ。
ぼくは自宅でフローリング寝をしていたからフカフカで気に入っていると伝えたら、伝えた人全員に変な顔をされた。
そもそも自宅でギリギリまで看病してるから入院の時点で毎回ぼくもぼろっぼろなんだ。彼女の入院のときはぼくもだいたい絶不調だった。
38度の発熱なら良い方でだいたいもっと発熱してフラフラになりながら彼女とお医者様との共闘をみまもった。
でもフラフラしていたら付き添いの許可を貰えないから気が付かれないように耐えに耐えた。
彼女の闘いは過酷だし、何より病棟のスタッフさんに可愛がられていたから24時間、数時間も開けずに誰かしら顔お見に来てくれる。
とはいえスタッフさんたちも忙しいからこちらが出来る細かなことはこちらで行う。
顔なじみのスタッフさんたちも気軽に来てくれるのがとても嬉しく楽しみだったけどその度に「良き母親モード」で常に気をはっていた。
というのが今までの入院のイメージ。
今回の入院はなんとおだやかなことか。
点滴を付けてもらってパラマウントなベッドに沈んでいられる。
身の回りのことはできるからいちいち人を呼ばなくていい。
目はぼやぼやだから本も読めないし映像としては楽しめないけどお気に入りの動画を耳で楽しむ。
優雅すぎやしないか。
今までの“入院”で奮闘したぶんのご褒美かもしれない。
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