ただのナースなのに、血管が美しい皇帝に婚約者にされました

キイロユイ

血管美人はヤクザ

第1話 血管美人はヤクザ?(1)

「はぁっ、はぁっ……」


私は荒い息をつきながら、横たわっている男性を見下ろした。


夜は深く、あたりには濃い闇が広がっている。


その男は全身を漆黒の鎧に包み、顔までも頭を覆う仮面で隠していた。


さっき、水の中から引き上げたばかりの彼の身体はびしょ濡れで、私も同じくずぶ濡れだった。


追い打ちをかけるように、ここは深い森の中の滝のそば。助けを呼べる人なんて誰もいない。


私はその男の体を乱暴に揺さぶった。



「ちょっと!しっかりしてください!皇帝ともあろうお方が、こんなところで倒れててどうするんですか!」



……残念ながら、彼に反応はなかった。


生きているのか死んでいるのか、もしかして心肺蘇生が必要な状態かもしれないけれど、分厚い鎧のせいで確かめることもできない。


仕方なく、私は意を決した。



「患者さん……じゃなくて、陛下!ちょっとお洋服、脱がせますね。少し我慢してください!」



状況が状況なだけに、この世界の常識に従って礼儀を尽くしている時間なんてなかった。


私は手探りで腰のバックルを外し、まるで鉄板を剥がすようにして鎧を脱がせていった。


するとその下には、やはり黒いシャツが隠れていた。私はシャツのボタンを上からひとつずつ外していき――そしてついに、


「……え?」


シャツの裾を手にしたまま、私は一瞬手を止めた。


目の前に現れた上半身には、思わず見惚れてしまうほど美しい筋肉がびっしりとついていた。


……でも、私が息を呑んだのは、その美しさのせいじゃない。


彼の胸のど真ん中に、半分割れた青い宝石が埋め込まれていたのだ。


その宝石は、淡く輝きを放ちながら、規則的に黒く染まってはまた青に戻るという動きを繰り返していた。


私はその不思議な動きを見つめながら、ふと何かに気づいて手首の時計を見た。



「……72回。」



15秒で18回、つまり1分間で72回の心拍。


間違いない。この宝石は、心臓の鼓動に反応して色が変わっているのだ。


しばらくその動きに見入っていた私は、ふと顔を上げた。


ぴくりとも動かない黒い仮面を見つめながら、私はぽつりとつぶやいた。



「どうして……」



――なぜ、皇帝のあなたが……


……テオさんと同じ身体をしているの……?

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