第19話 仲間募集はじめました②

 キョーカを加えて5人による新たな仲間を考える会が再開された。


「とはいえあまり知識が無いのですが……例えば、ギルド的にはパーティの人数制限ってあるのでしょうか?」


 早速キョーカが疑問を口にした。


「具体的な制限は無いはずよ。ただし、クエスト報酬はパーティ単位だから当然一人の取り分は減っていくことになるわね。だから仲間を増やすとなれば、さっさとゴールドランクに上がらないと」


「ちなみに50名以上を抱える大所帯パーティも上位ランクには存在するぞ。この場合、各クエストをグループ単位で受注していくのが基本スタンスになるな。緊急クエストや超高難度のクエストは報酬も莫大だし、数でものを言わせられるメリットはあると思う」


「うへぇ、50はすごいな! 顔を覚えるのも大変そう……」


 イゾウの話にフヅキは驚きの声をあげた。


「そうだな、それもあって統率がしっかり取れないと、ただの荒くれ者集団に成ってしまうこともある。聞く所によると、『ホワイトファング』の“緑黄色野菜”という一団が最近物騒らしい」


「野菜好きの集まりのように聞こえるけど、あんまり健康的な話じゃないわね」


「ごもっともだ」


「ねえ、これも今更なんだけどさ。何でオレらのパーティ名、“勇者と愉快な仲間たち”なの?」


 会話が続く中でフヅキがふとそんな疑問を口にした。


「仕方ないだろう……“勇者”を冠した登録名が多過ぎてどれも重複しちゃったんだもの。聞いたら、全ギルド新旧合わせて500以上のパーティに使われているんだって。僕が“勇者”を銘に入れたいって譲らなかったのも悪いけどさ」


 フヅキの質問にエフは難しい顔をしながら答えた。


「いや、いいんだけど……何かサーカス団みたいなんだよね」


「まったく、全然愉快じゃないわよ」「同感だな。呼び出される時、いちいち恥ずかしい」


 パーティ名に対するフヅキの率直な感想に続いて、カナリアとイゾウが不平を漏らした。


「……みんなそんな風に思ってたんだ」


 長期に渡るギルド制度の弊害として希望の名称を使えない問題が地味によくある。おかげで新興のパーティには珍妙な登録名も少なくないのだ。


「勇者……?」


 キョーカが会話の中の単語に反応して一言つぶやいた。


「ああ、言ってなかったかもだけど、エフは勇者なのよ。一応、正式な」


「え、そうなんですか!?」


「僕達は魔王討伐を目標にしています。ですから、キョーカさんとは行き先が真逆になるんですよ」


 口元に手を当て驚くキョーカに、エフは身の上を語った。


「といっても、しばらくは日銭稼ぎが続くから、先に進めないがな」


「うぅ……日々の生活費プラスアルファを得るって簡単じゃないんだな」


「フフン、少しは身にみたかしら?」


 現実を思い知らされて凹む幻想依存者にカナリアは含み笑いをした。


「どうしたの、キョーカお姉ちゃん? 下向いて考え事をしてるけど」


 キョーカの顔を覗き込んでフヅキは尋ねた。


「あ、いや……」


 ハッとして、言葉を詰まらせるキョーカ。しばらく俯いたままでいたが、やがて何かを決心して顔を上げた。


「あの、私……式典までの間であれば、皆さんのお手伝いができるかもしれません」


 一同はキョーカの発言に思わず目を向けた。


「それ、本当に?」


 フヅキがテーブルに身を乗り出して真っ先に問いかけた。


「うん、教会に戻って上に掛け合ってみないと確約はできないけれどもね」


 キョーカの回答にフヅキは両拳を上げて満面の笑みを浮かべた。


「それは是非にもない申し出だけど、どうして急に考えを変えてくれたの?」


「勇者様のことは常々お伺いしています。長く大変な旅をされていると……」


 カナリアの質問に答えながら、キョーカは腰を上げ席の脇に立った。


「ですから、私も教会の人間としてその一助になれないかと思い直したんです。自分を鍛えることにも繋がりますし、皆さんが良ければ旅の再開までの間、パーティに加えていただけないでしょうか?」


 キョーカは胸元に両手を添えて、顔を赤らめながら4人を順に見据えた。


 各々喜びの面持ちで互いに目を合わせ、再度キョーカを見つめた。


「もちろん。キョーカなら大歓迎だな」


「ええ、この前もすっごく頼もしかったもの」


「よろしくね、キョーカお姉ちゃん!」


 それぞれの言葉を受けて、エフも席をスッと立ち、


「クエストでの神術は見事でした。こちらこそキョーカさんが入ってくれるのは嬉しい限りです。悩み事の多い集まりだけど、どうかよろし――」


 キョーカに向かって一歩近づき、手を差し出そうとしたところで事件が起きた。


「も、もう限界ッ! やっぱり大勢でこっち見んといて下さい。溶けちゃう!」


「あひゅんッ!?」


 キョーカが突然勢いよく顔に手を当ててお辞儀したものだから、背中に担いだ錫杖がすっぽ抜けて、エフの脳天にクリーンヒットしてしまった。


「うわっ、痛そ……」「大丈夫か、エフ?」


「……え?」


 異変を感じたキョーカが顔を上げると、


「し、視線で……人は簡単に溶けない、から」


 エフが今際いまわの際の言葉を述べてそのまま床に崩れ落ちてしまった。


「カナリアは少し前に溶かされかけてたよね」

「その話は今はいーの!」

「ああ、完全に落ちたなコレ」


 意外にも周りは冷静にエフのことを観察していた。




* * * * *




 エフの頭部に神術を当てながら、さっきから平謝りを繰り返すキョーカ。錫杖による一撃を受け昏倒したエフをその場で介抱しているところだ。


「僕はもう大丈夫ですよ。だから、もう謝らなくていいですって」


 エフは既に目を覚ましていて、涙目を浮かべるキョーカをなだめている。


「……私、複数人に注目されるといつもこうなんです。視線が突き刺さってだんだんと居た堪れなくなるというか」


「でも、私達とここで会った時はそんな風には見えなかったわよ? ちょっと固かった印象はあったけど」


「それは多分、免許更新の期限が迫っていて気にしている余裕も無かったからで。実技試験でなかなか振るわなかった神術もクエスト中はしっかり使えていたし」


 3人が治療の様子を見守っていると、徐々にキョーカの手が小刻みに震え始めた。


「あ……え、なにこれ? 怪我してない所に術当たると、すっごい頭の中痒くなるんだけど! ちょっと待って、怖い怖いッ!!」


「ひえぇ……ご、ごめんなさい!」


 エフが叫び声を上げたので、キョーカは慌てて治療の手を止めた。


「これって……どういうこと??」


 その悶絶度合いに困惑するフヅキ。


「……俺達あっち向いているから、気にせず治療を続けてもらえるかな」


「あ、はい。分かりました」


 イゾウに言われ、再度神術が再開された。


 席に着席した3人は、しばらくしてからこっそりと治療の様子を後ろから盗み見た。するとキョーカの手がまたもや小刻みに震え出してきて、


「うん? あ……あぁ、痒いっ! 痒いよぉぉ!!」


 穏やかだったエフの顔がみるみると歪んでいった。


「つまり……視線が集中するとキョーカの術が乱れていくってことかしら?」


「ううむ、検証の余地はまだありそうだが……なんともはや」


 仲間の一時加入に喜んだ一行だったが、それと同時になかなか根深い問題に直面していることに気付かされた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る