2−3
実家では予想どおり、待ちかまえていた佐知子からの質問ぜめにあった。
匠の実家である柴本家は、小金井市梶野町にある。
東小金井駅からは徒歩十五分ほど。一戸建てが密集するエリアの、ごく標準的な建て売り住宅だ。職場からは自宅がある葛西と逆方向だが、距離的にはこちらの方が近い。
苦行となった夕食のあいだじゅう、匠は
「弁護士には守秘義務がある」
「佐藤さんは殺人を犯すような人じゃない」
を繰り返した。
匠が佐藤の弁護人であることを、佐知子に伝えるつもりはない。
明るくパワフルで気もちが若い佐知子は話好きである。パート仲間にどのように伝わるかわかったものではない。
佐知子によると、夕方のテレビのニュースで事務所の外観が映り、窓の事務所の名前で息子の勤務先だと気づいたそうだ。
佐藤の顔写真も、事務所のホームページの画像が流用され、テレビに出ていたらしい。
食事のあと、食器を下げるために立ちあがりながら、佐知子がいった。
「事務所の評判、下がっちゃうんでしょうねぇ……」
息子を心配しての言葉だとわかっていても、カチンときた。ダイニングテーブルに片ひじをつき、ことさら不機嫌なポーズを作る。
「……うちはいい事務所だよ。所長も、同僚もみんな人あたりがよくて、今までコツコツ、地道にお客さんからの信頼を積んできたんだ。そりゃ、もめる事がないとはいわないけどさ。お客さんから逆恨みされることはあっても、逆は絶対ありえない」
「じゃ、やっぱり殺された医者はお客さんだったの?」
「守秘義務」
「そうってことね」
「守秘義務っつってんだろ」
「あら怖い」
「なにが」
「あんた、背はデカいし声は低いし、怖いのよ。ただでさえ無愛想な顔してんだから。麻美ちゃんもなにが良くてこんな男と付きあってくれてるんでしょーねぇ」
「そんな息子を産んだのは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます