第36話 剣聖のおっさん、束の間の休息と女騎士の特訓
激戦を終え、しっとりと冷たい石壁に囲まれた豪華なVIPルームへと戻った誠一は、ふかふかの羽毛布団が敷かれたベッドに倒れ込むようにして眠りについた。城の地下牢はいつも、彼を癒してくれる。
翌朝、誠一は気持ちのいい目覚めを迎える。
照明用魔道具の光量を操作すると、柔らかな照明が室内に降り注ぐ。
ふかふかのベッド、豪華な調度品、広々とした室内に明るい照明と快適な室温。
彼の部屋は、王城で一番の快適さを誇っている。
朝食の時間になると、アリア姫とセレニア王妃、そして女騎士シルヴィアが、銀のトレイに盛られた豪華な料理を運んできた。湯気を立てる温かいスープ、こんがりと焼き色のついたパン、色鮮やかな新鮮な果物、そして香ばしい匂いを漂わせる卵料理。食卓は絵画のように美しく彩られている。
「おはようございます、誠一さま。昨夜はよく眠れましたか?」
アリア姫が、愛らしい笑顔で尋ねる。
彼女の金色の髪は、照明を受けてきらきらと輝いていた。
「ええ、おかげさまで。冒険の疲れが吹き飛びましたよ」
誠一は、恐縮しながら礼を述べた。
ほんのりと漂う甘いパンの香りが、彼の空腹を刺激する。
「ふふ、お腹が空いてますわよね? 朝食にいたしましょう」
セレニア王妃が優雅な笑みを浮かべる。
柔らかな金髪が、彼女の気品をさらに引き立てた。
「……それで、昨日の冒険のお話、聞かせていただけますか? 大量発生したゴブリンを、たった四人で全滅させたとか」
シルヴィアは、いつも通りの真面目な表情で、しかしその瞳には好奇の色を宿して誠一を見た。彼女の視線は、まっすぐに誠一を捉えて離さない。
「いやあ、それがですね……」
誠一は少し照れながら、ゴブリンとの遭遇、少女たちのパニック、そして自分が皆を守らなければと決意した瞬間を語った。
もちろん、三人の少女からパンツをスティールした件や、自分がギルドカードに「荷物持ち」としか評価されていないことは伏せた。
「凄いですわ、誠一さま! たったお一人で、恐ろしいゴブリンの群れを……! まさに剣聖にふさわしい武勇ですわ!」
アリア姫が、目を輝かせながら誠一を見つめる。
彼女の尊敬の眼差しが、誠一の心をくすぐった。
その純粋な瞳が、誠一には眩しかった。
「頑張りましたね、誠一さん。無事で何よりです」
セレニア王妃が、慈愛に満ちた眼差しで誠一を労う。その優しい声に、誠一の胸は温かくなった。彼女の声は、まるで陽だまりのように温かい。
「流石は剣聖ですね、誠一殿。数百のゴブリンを短時間で制圧するとは……私にはとてもできません」
シルヴィアも、珍しく素直な賞賛の言葉を口にした。
その凛々しい顔立ちに、わずかに尊敬の念が浮かんでいる。
彼女の頬が、ほんのわずかに赤らんだように見えた。
三人から褒められ、誠一はまんざらでもない顔をした。
自分の行動がこれほどまでに評価されるとは、と彼は思った。
「次の冒険は五日後ですので、それまでは、この部屋でゆっくり休もうと思います」
誠一は心ゆくまで、冒険の疲れを癒すことに決めた。
豪華な食事と温かいもてなしに、彼の心はすっかり満たされていた。
***
しかし、休息は長くは続かない。
ある日の午後。
誠一が部屋でだらけていると、「ぎぃ……」と重い音を立てて牢の扉が開いた。
そこに立っていたのは、真剣な面持ちのシルヴィアだった。
「誠一殿、今、少しお時間はよろしいでしょうか?」
シルヴィアの真面目な声が響く。
「ええ、どうぞ」
誠一が返事をすると、シルヴィアは訓練着姿で部屋に入ってきた。
紺色の髪はいつも通りきっちりと結い上げられ、引き締まった体が訓練着に包まれている。その訓練着は、彼女の鍛えられた筋肉の隆起をはっきりと浮かび上がらせていた。
「誠一殿、もしよろしければ、私の訓練を指導していただけませんか?」
シルヴィアは、まっすぐ誠一を見つめて言った。
その瞳には、真剣な光が宿っている。先日、魔剣士ベリアルに完敗し、自信を喪失気味だった彼女は、何かを掴もうとしていた。
「もちろんいいですよ。まずは日ごろの訓練の成果をチェックしていきましょう」
誠一は快諾した。
彼は普通のおっさんなので、ちゃんとした剣術指導などできない。
だが、落ち込んでいるシルヴィアを元気づけてあげたいという気持ちは本物だった。それに――彼は普通のおっさんなので、相応の下心も持ちあわせている。
「ありがとうございます、誠一殿!」
シルヴィアは、深々と頭を下げてから、言われた通り訓練を開始する。
誠一は、そんな彼女を見ながら、訓練着姿のシルヴィアをじろじろと、いやらしい目で眺めていく。
「ふむ、訓練方法は、間違っていませんね。では、触診でさらに詳しく調べますよ」
誠一は、もっともらしいことを言いながら、シルヴィアに許可を求めた。
彼の言葉に、シルヴィアは迷いなく頷く。
「はい、お願いします、誠一殿」
許可を得た誠一は、ためらいなく彼女の肌に指を這わせていった。
ひんやりとした肌の感触が、誠一の指先に伝わる。
引き締まった上腕、鍛え上げられた腹筋、しなやかに伸びる太腿……。
彼は、シルヴィアの身体のラインを丹念に指でなぞっていく。
(シルヴィアさんの引き締まった身体は、本当に素敵だなぁ……。うむ、まさに芸術品。この手で触れることができるとは、剣聖冥利に尽きるというものだな!)
誠一の心の中は、ドス黒い感情でいっぱいに満たされていた。
もちろん彼は、彼女の胸やお尻には触らない。
本当は触りたくて仕方がなかったのだが、そこを触ってしまうと、シルヴィアから軽蔑されるのではないかと思い、怖くて触れないのだ。誠一の指は、まるで禁断の果実を前にしたかのように、あと一歩が踏み出せずに震えていた。
(せっかく、こんな風に尊敬されているんだ。この関係を壊したくない。けれど、ものすごく触りたい……!)
誠一の中で、スケベ心と、見栄が激しくぶつかり合う。
幸い、今のところは「見栄」の方が勝っているので、彼は過ちを犯さずに済んでいた。
誠一は、触診と称して、間近でさりげなく、彼女のふくらみを見るだけにする。
その視線は、もちろん、彼女の目には気づかれていない。
「俺の調べたところ、シルヴィアさんは順調に成長しています。焦らずに今の鍛錬を続けるといいでしょう。きっと、どんな強敵にも打ち勝てるようになりますよ」
誠一は、適当なことを言いつつも、精一杯の励ましの言葉を送った。
彼はただのおっさんなので、ちゃんとした指導はできないが、精神的なサポートならできるのだ。少なくとも、今の彼には、それが最善の指導だった。
「ありがとうございます、誠一殿! 誠一殿のお言葉を胸に刻み、精進いたします!」
シルヴィアは、心からの感謝を込めて、誠一に深々と頭を下げた。
その尊敬のまなざしに、誠一は顔をにやけさせた。
満面の笑みを隠そうともしない。
(いやぁ、こんなに感謝されると、悪い気はしないよなぁ! ……しかし、この「剣聖」という肩書、まさかこんな形で役立つとは。人生、何が幸いするかわからんもんだ)
誠一は、内心でほくそ笑んだ。
シルヴィアの真摯な瞳と、彼の複雑な内面が交錯する、奇妙な師弟関係がそこにはあった。
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