第9話 セリアの心の内
――――――出会った時から、あの御方は私、セリア・マーキュラスの
などと、他の側近に話をしたら軽く驚かれ、引かれた記憶がある。が、誇張でもなんでもないのだから仕方がないことですわね。
生まれた時のことはよく覚えていませんが……、物心ついた時から魔獣に囲まれ、襲われ、その日を生き抜く暮らしをしていた記憶がありますわ。
所謂「野生児」というものでしょうね、私は。SとMの両側面をもつ今の性格も、その状況下で平静を保つための防衛本能のよう所から生まれたものだと推測されますわ。
そのような生い立ちであったから……、後に商人に拾われ奴隷として売りに出されても、何かしら問題を起こし返される、ということを繰り返していた。
まぁ、言ってしまえば「必要性のない存在」であったということですわね。
ですが――――――、あの御方は、プローディー様は、そんな私を救いあげ、重宝してくださった。
ええ、もちろん理解していますとも。あの御方が私を手元に置いたのは「利用」するため。
私のこの性格と出自故の戦闘力の高さが、自身に有益となりうると判断した故でしかないのでしょうね。
ですが、あの御方は私の特性を利用した「力」も与えてくださったし、何より必要としてくださった。こんな私を利用してくださった。
そして――――――、その偉大なお力を存分に発揮し、魔界・人間界に畏怖を
多大なる恩と想像もつかぬ程の御力が、あの御方にはある。
正に、私の『全て』たるに相応しいお方。故に私はその全てを捧げ、尽くして参りました。
ですが――――――、
「いやぁお前が無事でよかったよかった。久しぶりに顔突き合せて話するってのによ。いざってなると何話しゃいいのか分かんねぇなあアッハッハッハッハ」
「…………」
「って、どしたよセリア。変な表情しおって」
「いえ別に……。なんでもありませんわ」
その御方――――――、魔王プローディー様は今や変わり果てた姿で、それを恥ずかしがる様子もなく、私の目の前で飄々としながら笑っていらっしゃる。
ここは私にとっては異世界……に属するところ。我々魔界と敵対する組織に捉えられ、尋問を受けてる最中。
尋問官が席を外してしばらくしたら、急にプローディー様が入られてくるものだから少し驚いたし、お目にかかれたこと自体は嬉しいことこの上ない……のですが。
できればこのようなお姿の貴方様は、見たくはありませんでしたわ。
卒倒しそうになる気分をどうにか抑える目的で、ひとつため息をついた。
「ですがこれが今の貴方様、プローディー様なのですよ、ね」
「ん? あぁそうだぜ。如何にも、俺は元・魔王プローディーだよ。今は天龍司って別の名前があるけどな。まさか自分からコンタクト取っといて疑ってるわけじゃねぇよな?」
「あは、まさか。むしろ昨日お相手して頂いて、認識を新たにしたところですわよ?」
本当に――――――、そこら辺にいるクソ俗物と変わらぬようなお姿で誠にお労しい限りです。けれども。
貴方様はそのような姿でもなお、私の想像を大きく超えてくださった。
御力は衰えてもなお、貴方様はまさしく私の敬愛する魔王プローディー様なのだと確信いたしました。
はて、どこに疑う理由があるのでしょう?
「はは、そーかい。それなら良かったよ。てっきり『そんな軟弱な貴方様、プローディー様とは断じて認めませぬ! 』なーんて言って暴れてくる気もしてたからよ」
「うふ、そんなことはいたしませんよ。私は貴方様に負けたのですから。『勝った方が強く、正しい』というのが
「……はっ。確かにそうだったな。考えてみれば」
「……?」
うふ、シンプル、故に分かりやすくて好きですわ。この考え方。
ですがプローディー様は少し渋いお顔をされていらっしゃいます。はて、何故でしょうか。
そう。これです。私が今の貴方様に感じる違和感。
どこかモヤがかかるような、それでいて苛立つような。
昔の貴方様は、このようなことで、そのようなお顔をされるような方ではなかったのに――――――、
「いや、ちげーよ。
「な、何をおっしゃいますの!? 貴方様がそうであったからこそ今の魔界、ひいては今の私が――――――!」
「そっちの方が都合がいい。今のお前みたくなってくれりゃ上手く利用できる……なんて考えてた記憶があんだよ。お前のためを思って、なんざ頭になかったのかもな」
「だからなんだと言うのですかっ!? そのようなこと……っ!」
当然承知しております、と言おうとして言葉に詰まる。まるで昔の自身が間違っていたと言わんばかりにプローディー様は顔を伏せてお顔を歪められていたから。
何故、何故なのですか。貴方様がそこまで思い詰められる理由が、私には分かりませぬ……!
あぁ、それとも。
私が理解できないほどに、貴方様は、
「貴方様は――――――、この世界に来て、余りにも変わられてしまったというのでしょうか……?」
力なく笑うプローディー様を見て、私は。
困惑のあまり掠れた声を、漏らすしかありませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます