第7話 めんどくせぇ事になってもうた

「あ、ぐ――――――、ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」


 セリアのそんな苦しそうな絶叫と共に漆黒の魔力の塊は天高く上昇する。流石の威力だ。あれをまともに食らったらマジでヤバかったな。

 それはある程度の高さまで上がりきると、一瞬静止する。そして。


 爆発した。


「――――――っっ!!」


 思わず腕を覆って顔を伏せる。ビルより高い位置で弾けてくれたから周りの建物に被害はない。けど……、あれ、地面に着弾してたら被害とんでもなかっただろうな、なんて想像する。


 その後、どさっ、という音とともに何かが落ちてくる――――――、セリアか。

 今のがだいぶ応えたみてぇだな。ボロボロの姿で膝をつきながら、疲弊したような表情で息を切らしている。


「はっ、は――――――、く……、まだ……!!」

「その辺でよしとけや。いくらお前が痛みに耐性があるとはいえ、流石にキャパを超えてんだろうよ」


 現に苦しそうで笑う余裕も無くなってるしな。

 それに蓄積されたダメージだけじゃない。ユーホリック・ヒステリア多幸的なヒステリーを使った代償も重くのしかかってるはずだ。


「それに……、ユーホリック・ヒステリア多幸的なヒステリーの反動だってあるはずだぜ。あんだけタカぁ外してたんだ。相当身体にキてるんじゃねぇのか?」

「……っ、そんな、ことは」

「誤魔化すなよ。現にその場から1歩も動けてねぇのが証明だろ。だから無理すんなっての」


 そう、ユーホリック・ヒステリア多幸的なヒステリーには大きな弱点がある。それが、能力を使った後の反動だ。

 感情の昂りを利用して大きな力を引き出すために、身体に本来かけられているリミッターも外すのだ。そのため、身体にかかる負担はえげつないものになる……はずだ。

 あんだけ能力使って暴れてりゃ、それなりに反動はきてるはずだし、佐倉さんの一撃だったり俺の雷撃サンダーボルトだったり……蓄積されたダメージもあるはずだ。

 

 だからこれ以上は動けねぇはず。

 てか動かないでくださいお願いします。正直俺もさっきの反動で割と限界なんで。情けないけど。


「……っくふ、あはっ。素晴らしいですわ。確かに私、もう1歩も動けませんもの。降参、です……」


 彼女はそう言うと力なく俺を見つめながら笑う。

 彼女にしては珍しい気の抜けた、柔和な笑顔だ。


「本当にいつも……私の矮小な想像など……軽く、超えてきてくださりますのね。御力は衰えど、やはり流石……」


 その先をなんて言おうとしたのかは分からない。その言葉を紡ぐ前に、彼女は地面に倒れ込む。

 戦う意思がなくなったもんだから気が抜けてそのまま気絶した……とかだろうな。ちゃんと息はしてるし。

 んで、後ろの佐倉さんは……無事みてぇだな。良かった。


「さて、と。佐倉さん。悪ぃな、助けんのが遅くなっちまってよ」

「え、いや、全然。むしろ私何も出来なくて……ってか、それより私は貴方に色々と聞かなきゃいけないことが――――――」

「あぁそれならいくらでも話すんだけどさ。ちょっと後でにしてくんねぇかな? 俺も割とマジで限界……っ」


 さて、そろそろ俺もユーホリック・ヒステリア多幸的なヒステリーの反動に耐えられなくなってきたところだ。

 身体中に強烈な痛みと脱力感を感じ、そのまま地面に倒れ込む。


「っぐ――――――!!」

「て、天龍くん!? 大丈夫ですかっ!?」

「心配すんな死にゃあしねぇよ……。多分、な……」

「え、えぇ……。安心できないんですけどぉ……?」


 佐倉さんのそんな困惑した声を聞いて、少し罪悪感に駆られる。申し訳ねぇ。

 

 そう、短時間とはいえ、俺もセリアと同じく身体のリミッターを外して戦っていたのだ。そんなことしてりゃそりゃこうなるのは自明の理ですわな。

 だからいざって時の奥の手にしてたんだよこの能力。割と直ぐにこうなっちまうし。

 むしろこの能力を使ってあそこまで動けるセリアが異常なのだ。元々の適正もそうだしこの能力に関しちゃ俺より熟練してるとはいえ……やっぱ色んな意味でバケモンだわアイツ。


 今の俺がよく勝てましたよ。ホント。


「わ、悪ぃな。取り敢えずあいつと……俺をどうにかできるか? まぁ色々聞きたいことも、あんだろうし……。どうとでもしてくれていいけどよ……っぐぅ」

「あーもう無理しないでくださいっ。まぁあの人型の怪物は連行するとして、貴方も私たちの本部に連れてかせて貰いますけど、それは……」

「詳しくは署で、ってやつか。ま、いいぜ。こんなんだから話ができるのは……、だいぶ、後になっと思うけど」

「そ、そうですよね。取り敢えず本部に連絡を入れますね……。こちら佐倉です。本部応答を――――――」


 佐倉さんは何やらあれこれ誰かとやり取りをしているけど、今はそんなこと気にしてる余裕は無い。

 疲れと身体中の痛みで徐々に頭が働かなくなるなか、俺は、ぼんやりとこんなことを思った。


 ――――――あぁ、やっぱりめんどくせぇ事になってもうたかもな。


 だからある程度の期間は俺のこの『力』のことは隠しておきたかったんだが……まぁしゃあねぇか。状況が状況だったしさ。

 後悔はしてねぇけど……これからが厄介だよなぁ。そう思ったのを最後に俺は、そっと目を閉じて意識を闇に手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る