第2話 日常と非日常は同時にやってくる
「こちら佐倉。本部応答願います」
『佐倉君か。どうした?』
悟がキマイラを倒してから5分程経過した頃。同じ場所に一人の女性の姿があった。
端正で可憐な顔立ち。有名アイドルグループのメンバーの一人、と言われても信じてしまいそうな程だ。
さらに髪色は桜色に染まっており、一際存在感を放っている。
「はい。先程の魔物の件。只今現地に到着したのですが……」
『イレギュラーがあったか。何があった?』
「……その、既に
白目を剥いて動かなくなっている怪物を、彼女は怪訝な顔で見下ろす。
彼女が所属する組織は最近世界中に現れた「怪物」から、日本社会や経済を守る為に結成された政府直属の組織だ。
既存兵器を使っても倒すのに苦労する怪物達を、迅速に処理できる唯一の存在。故に、存在を検知してからここまで速く鎮圧できるのは私たち以外にはいない。
と、言うよりも私達でも一部の限られた人間のみできる芸当である、はずだが。何が起こったのだろう。私が到着するまでに、一体何が……?
そう疑問を、異変を感じずには居られないのである。
『なるほどな。そうなると……我々が把握していない「能力者」によるものの可能性もあるな』
「っ、そんなまさか。怪物のこの姿を見るにおそらく戦闘タイプ、ですよ。訓練を受けてない人間にそのようなマネが――――」
『己自信で牙を研いでいた、という場合もある。とにかく君は一度本部へ戻れ。この件について詳しく話を聞きたい。手がかりになるものがあれば回収して来てくれ。切るぞ』
「……かしこまりました。それでは」
ぷつっ、という音と共に、通信は終わる。
その音を聞いてすぐ、「佐倉」と少女はふぅ、と一つため息をつく。
――――あーもう。どーしていっつも私がこんな面倒事……。
見つけちゃうんだろ。なんて自分の不運を呪っても何も始まらないのだが、そう思わざるを得ない。
きっとまた忙しくなるんだろうなぁ、クッソダルいわ。などとこれから先の未来に悪態をつきながら、もう一つため息をついた。
◇◆◇
さて、前世が最強の魔王でした、なんて事実を思い出したところで俺こと天龍司が過ごしてた日常が、急に変わるかなんていったらそうでもない。
まぁそれも当然だ。バレないように動いてんだから。この力がバレたら最後、面倒事どころの騒ぎじゃない事態になりかねない。
だから、ある程度今後の方針が固まるまで周りにこの力を気取られることなく過ごしていかなきゃならないわけだ。
……そのためにはまずこの力を高めたり、上手く制御できるようにならなきゃいけないわけだけど。
「やーっほ。そんな難しい顔してどうしたんですか? 天龍くんっ」
「ん……? あ、なんだ佐倉さんか。おはよう」
どうすっかなぁ、なんて大学の講義室の隅で考えていたところ、ゼミの友達――――
本人曰く地毛らしい桜色の特徴的な髪色に、可憐な顔立ち。入学当初から何かと話す機会が多く、自然と仲良くなった存在だ。
「む、なんだとは何ですか失礼な。私は貴方にとってその程度の存在だってコトですか? もうっ」
「ん、いやそういう訳じゃ。ただ考え事してたからちょっと驚いただけで、さ……」
「っふふ。ジョーダンです。そんなに焦らないでくださいよ可愛いなぁ」
「……からかうなよ」
彼女は俺の反応を見て面白そうに笑う。悔しいけど可愛い。抗議の視線を向けるけど更に悪戯っぽくニコッとするもんだから、諦めてひとつため息をついた。
ったく、いくら偉大な前世を思い出したとて、こういうところじゃ威厳もクソもあったもんじゃねぇな。
それだけ、天龍司として生きてきた『経験』が大きく影響してるってこと、だろうか。
「ハイハイ、すみませんでしたよ……っと、そうだ天龍くん。あなたにちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「ほう、何さ急に?」
彼女のそんな言葉に、俺は少し身構える。
いや、別に彼女のことを警戒してる訳じゃないんだけどさ。
「いえ、バ先の関係で色々と聞き込みしてて。最近あなたの周りに不思議な力を使う人って、出てきたりは……」
あぁこの質問、多分アレだ。
最近できた
彼女もその組織の一員だと、この前聞いた記憶がある。
彼女の質問を警戒したのはこれが原因だ。彼女の組織に俺の素性を知られちまうと、それこそ厄介なことこの上ないわけだし。
「うーん……。俺の知る限りではそんな人居ないけど」
そう軽くはぐらかしつつ、彼女の持つ『力』をこっそりと窺う。そう、彼女にも感じるのだ。俺達が持つものと似た『力』を。
その力の大きさから推測するに、だいぶ組織の中でも中心的な存在なのではないか。そんなことを邪推するくらいには、彼女の力は大きく、また彼女に馴染んでいた。
「そう、ですよねぇ……。あぁもう、思った以上に難航しそうだなぁ」
「大変だね君も。巷でよく言う『能力者』のスカウトだったり?」
「まぁ、そんなところです。『能力者』の発見も大事な仕事、みたいですからね。でもそんな人中々居ないんですよ。お陰様で人手不足ぅ……」
ぐったりと机に突っ伏し、ぶつくさと彼女は文句を垂れる。相当大変なのか大きなため息をつきながら。
……まぁ、あれだろうな。こんなこと聞かれたのは俺がキマイラを倒したのが原因だろう。彼女は上手くぼやかしてたけど、多分組織は俺を見つけ出そうとしてる。
処理に困ってこの人たちに任せちまったのがまずかったみたいだな。しばらく身の振り方には気をつけんと。
「そっか。まぁ俺は頑張れとしか言えんよ……。お勤めお疲れ様っす」
「うぅ、慰めは嬉しいけど仕事が減るわけじゃない……。複雑です……」
力になってやれない罪悪感は心の隅で感じつつ、俺は今後について考えを巡らせた。
◇◆◇
「……うめ」
どんなヤツにも昼は来る。どこかで聞いたようなセリフを頭の中で呟きながら俺は、ラーメン屋で昼飯を食っている。
今日の講義は2限だけだし所属してるサークルの活動も休み。まぁサークル室には行く予定だけども、それも時間的にはだいぶ先。
だから学校からは少々離れたところにある、マニアの間では美味いと話題のラーメン屋にてのんびり麺を啜っているわけだけども。
いやぁいいっすねぇやっぱりラーメンは醤油こそ至高。異論は認める。
魔界にももちろん美味い飯はあった……、けど、この世界の美味いもんは明らかにそれとは別格。
美味しさの『種類』が段違いなのだ。甘い、辛い、塩気がある、酸味がある、はてまた複合的に絡み合って色んな味を成す……。魔界にいた頃には経験したことがない。
魔界に比べて調味料の種類も豊富だから色んな味が楽しめる。多分魔界の奴らがこの世界にちょっかいを出すのにはここら辺にも原因があるだろうな。
そう思いながら麺をすすり終わってスープを軽く飲む。
いやぁ後世まで語り継がれて欲しいな、この味。
ラーメンは国宝とは誰が言ったか(言ってない)。この言葉は真理だと思う。魔界に持って帰ったら経済発展の起爆剤になりそう……っていうのは、流石に言い過ぎか?
いやぁ満腹満腹いい気分……で、店を出たまでは良かった。んだけど。
突然肌がひりつくような、強い刺激を感じた。
上空を見ると、黒い『窓』が姿を現す。
間違いねぇ。魔界からのヤツだ。
「ち、また来たか……!」
よりにもよってこの場所に。大学から離れてっから人も少ないし、ってタカくくってたのが間違いだったか。
午前中まで暫く身の振り方を考えようとか思ってたけどそうも言ってらんなくなったな。
「
国宝クラスのこの場所を更地にされてたまるかってんだ。この場にこの状況を何とかできるやつが俺しかいないならやってやろうじゃねぇか。
ちなみに周りにいた人はみんな逃げ始めている。『窓』が開いたらすぐにげて! とか注意喚起されてるし、まぁ当然か。
暫くして、窓から魔獣が姿を表す。
『バウンサー・ルー』か。二足歩行の筋骨隆々としたカンガルーみたいな外見の魔獣が姿を現す。
基礎身体能力が魔獣の中でも高く、フットワークの軽い動きが特徴的な魔獣だ。故に近接格闘に滅法強く、前線での切り込み隊、威力偵察とかに役立ってくれる存在だ。
「意外と面倒なのが来やがったな……ってぐぇ、3匹お出ましかよ」
1匹ならまだ楽だったんだけど、追加で2匹出てきやがりました。個別に動かれたら厄介な事この上ない。街になるべく被害を出さないようにしたいのに……。面倒だな。
……確かこいつら、闘争本能だけはあったはずだ。強い魔力を感じれば、自ずとそっちに引き寄せられる、はず。
なら――――!
「来いよ……。こういうの、好きだろお前ら――――!」
自分の中にある膨大な魔力を、こいつらにもわかるように放出する。
その瞬間、3匹まとめてグルンとこっちを向いた。
おーおー。獰猛な顔してくれんじゃねぇか。
来いよ。3匹纏めて魔界に叩き返してやるからさ。
俺の中にもある闘争心が程よく刺激される。
さて、被害を出さないようにこいつらを沈めるにゃどうしたらいいかな――――、なんて飛びかかってくる3匹を見つめながら考えていた。
その時、背後から突風が吹き抜けていった。
その次の瞬間に俺が目にしたのは。
バウンサー・ルーの頭を地面に叩きつける佐倉さんだった。コンクリに叩きつけられたそいつは、白目を剥いたまま動かなくなる。
「おぁ?」
「……っち、こんなとこで何してんですかっ、天龍、くん!!」
そう言うと彼女は叩きつけた1匹をそのまま足蹴にもう1匹に飛びかかる。今の出来事に驚いたのか2匹は動きを止めていた。
そして飛びかかったヤツに、全力の手刀をお見舞いする。悶絶するような顔をした後、そいつもそのまま動かなくなる。
いや強っ。多分単純に魔力で身体能力とか、手刀の威力とかを瞬間的に引き上げてるんだろう。けど、彼女はその力を明らかに
単純故に高威力を発揮するけど、洗練させるのはかなり難しい類のもののはずだ。よくやるぜ。
……ってやべ。そんなこと思ってる間に最後の1匹がこっちに向かってきてる。佐倉さんがこの場にいるんだ。なるべくバレねぇように逃げ回るしかねぇか。
そう思って身構えた……んだけども。
佐倉さんはポケットから魔力の香りがするナイフのようなものを取り出し、投擲。攻撃力が高まったそれはバウンサー・ルーの腹部を貫き、そして。
最後の1匹も地に倒れ伏し、動かなくなる。
おぉすげ。ほぼほぼ被害を出さずに制圧しちまったよこの人。流石……とでも言おうか。
なんて呑気なことをぼんやりと考えていたら、佐倉さんがこっちに近づいてくる。
ちょっと圧を感じさせる、怖いような笑みを携えながら。
「さぁて天龍くん。私は貴方に聞きたいことがあるんですけど、いいですか? 一般人の貴方が何故に逃げずにこんなところに立ちつくしてたのかとか、それはもう山ほど……ね?」
「まぁ、どうぞ……」
……まぁ、この調子だと俺の中にある『魔力』のことはバレてないんだろう……けど。
言い訳にゃ骨が折れんだろうな、とは心の片隅で思った。
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