第18話 PULSE

夜風が瓦礫の隙間を抜けていく。

鉄と埃の匂いが鼻を刺し、乾いた靴音だけが廃墟の街に響いていた。



No.17は無言のまま歩き続ける。

足元で、ひび割れたアスファルトの縁が崩れ、下へと空間が続いていた。


割れ目の奥、錆びついた鉄製の階段が闇へと沈んでいる。

手すりは途切れ、段差の間から湿った空気が吹き上がってきた。油と鉄と、生臭さが混ざった匂いだ。



迷いはなかった。No.17は一歩、また一歩と降り始める。

踏み板が軋み、その音が下方へ反響して消える。


降りるほどに闇は濃くなり、外の風音も遠ざかっていった。



 耳の奥で、無線がざらつく。


「……その先、記録にない構造だ。気をつけて。」


幽の声だ。



No.17は答えずに歩を進める。

やがて階段は途切れ、コンクリート打ちっぱなしの通路に出た。

天井は低く、壁際にケーブルが無造作に這っている。水溜まりに滴が落ちるたび、ぽちゃん、と小さく波紋が広がった。



前方に、古びた鉄扉が立っている。

全体が錆で覆われ、取っ手も半ば崩れていた。


ノブに手をかけた、その瞬間。


背後でギィィ…と低い音。


振り返ると、上の階段口にあった鉄扉が、ゆっくりと閉まっていく。

外光が細くなり、最後には闇に溶けた。


「……閉まった?」

幽の声が微かに揺れる。


No.17は再び鉄扉へ向き直る。押すと、わずかに隙間が開き、淡い光が漏れた。

その隙間から覗く床には、金属片がいくつも転がっている。



「……何か、動いてる。」

幽の声が低くなる。



同時に、体内デバイスが微弱な脈動を検出した。間隔は一定……まるで心臓の鼓動。


No.17は力を込め、扉を押し開ける。

冷たい空気が吹き出した。

室内は薄暗く、壁沿いにケーブルが奥へ奥へと伸びている。

中央には黒い影がひとつ。人型だが、微動だにしない。


近づくと、それは半壊した人造人間の残骸だった。


装甲は焼け爛れ、左腕は消失。

額には、見覚えのない識別コードが刻まれている。


「コードの横に刻まれている、その紋章。神守のものではないし、かといって禍徒のものでもやい。」


No.17はしゃがみ、胸部カバーを外した。

内部から、小型の記録モジュールが現れる。



「それ、持ち帰って。解析する。」

幽の声が通信越しに届く。


モジュールを引き抜いた瞬間、残骸の目が赤く光った。

直後、地下全体が低く唸り始める。



通路の奥、闇の中で赤い光点がひとつ、またひとつ灯る。

数は増えていき……やがて十を超えた。



「No.17、そこからすぐに離れて。」

幽の声に緊張が滲む。



光点が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

その唸りは次第に重低音へと変わっていった。

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