第12話 夜が明けて

「うーん……」


 眠い。


 外から、鳥のさえずりや人の動き出す音が聞こえる。


 昨日大変な目にあったからいっぱい寝ようと思ったんだけど、もう目が覚めちゃったな。しゃあない、起きるか。


 心地よい眠りを名残惜しみながら目を開けると。


「――おはよう、エドガーくん。まだ眠いんじゃない?」


「おはよう、スノウさん。今日も、バッチリ俺より早いんだな……」


 目を開いた先には、純白の美少女。人形のように整った顔で、優しい笑みを浮かべて俺を見つめてる。


 寝癖一つないし、もう目覚めて結構経ったって感じだよな。ぜんぜん物音とかしてないと思うんだけど、いつ身だしなみ整えてんの?


「慣れない場所で、緊張して早く目が覚めちゃった。もうすぐ朝ごはんも来るから、エドガーくんはこれで顔とか拭ってね」


「おお、ありがとう」


 手渡された布巾は水でしっとりと濡れている。準備がいい……。


 俺は周囲――小綺麗に整えられた納屋の中を改めて見渡す。


 水差しやベッドも用意されてて、もはや俺の住んでた寮より快適だ。


 ここはスノウさんちのメイドさんの実家だから、主人に不自由させないよう昨日急いで準備したんだろな。


 見上げた忠誠心だと感心しながら顔を拭ってると。


 お、扉がノックされた。美味しそうな朝ごはん持ったメイドさんがやってきた。


 俺は寝具から這い出して、昨日運び込んでもらった小さなテーブルへ向かう。


 そうして、食事が配膳されるのを待って。空かした腹に朝食を詰め込み始めた。




 空になった食器が持っていかれるのを眺めながら。スノウさんは俺に向かって言う。


「昨日、なんとかここに逃げ込めたばかりだけど。次はどうするか早く決めないとね」


「あー、そうだなあ。ここにずっといても事態は良くならないし」


「うん。取り急ぎやらないといけないのは……都市上層部との接触、かな」


 そうなるよなー。


 いまの俺は、精霊への人身御供として軍に狙われてる。俺を捧げたあとどうするつもりなのかは知らんけど。


 一方の都市上層部は、俺の力を当てにしてるのかなんなのか、俺を助けてくれそうな感じらしいし。


 そうなってくるとあれだな。俺が都市と協力して精霊を倒す――これが軍も都市上層部も納得する結末じゃなかろうか。


 まあ、そこまでできるかは都市上層部の思惑を確認しないとわからんけど。とにかく、まずは話をするところからだ。


「じゃあ。会いに行くかあ、評議会に」


 都市の運営にかかわる重大事を決める組織。評議会のメンバーに会って、軍の暴走を止めるなり精霊討伐に動くなり。


 どうやってつなぎをつけるかは、甘えっきりで悪いけど、またスノウさんに頼るかあ。


 そんなこと考えてたんだけど。


 ……なんかスノウさん、いつもより元気ないよなあ。いつもとあんまり変わらないけど、ちょっと無理してる感があるというか。


 やっぱ昨日の大立ち回りで疲れちゃったか?


 気になるし聞いてみよう。


「スノウさん」


「うん? どうかした?」


「スノウさん、なんか元気なさそうだけど大丈夫? 俺のことで無理してるなら、今からでもほっぽり出してくれていいから」


「なっ。ほっぽりだすなんて、そんなことするわけないよ! ぜんぜん負担じゃないし! エドガーくんは命の恩人で、それになにより……」


 なにより?


「エドガーくんが私なしでやってけないなんて、むしろちょっと嬉しいくらいだから!」


 なんか重たいこと言い出したぞ。最近のスノウさん、こういうとこある。


 美少女だからぜんぜんいいけどな。


「負担じゃないならいいんだけどさ。じゃあ、なんで元気ないんだ? 体調悪いってわけでもないよな?」


「う、それは。……正直、気づかれると思わなかったよ。これはその、ちょっと悩んでるっていうか」


「悩み?」


「……私、もう戦いであんまりエドガーくんの役に立てないなって」


 あ~。スノウさん、俺のこと守るって言ってたもんな。生活の面倒を見てもらえるだけで十分なんだけど、たぶんそういう意味で言ってなかったろうし。


 要は、俺がもう魔法使わなくていいようにしたいんだもんな、スノウさんは。


 うーん。落ち込んでるスノウさんに、俺が何かできるもんかな。学園一の優等生に対して、まさかアドバイスを考える時がくるとは。


「昨日も軍のやつら抑えてもらって助かってたけど、そういうことじゃないんだよな? もっと強くなりたいなら、そうだな」


 俺が強くなった方法めっちゃ邪道だからなあ。自分のこと参考にも……あ、あれがあったか。


「じゃあさ。――存在核? ってのを意識して魔力を使うといいかも」


「存在核って……前、あの精霊が言ってた?」


「そうそう。俺もそんな名前付いてるの、あの時まで知らなかったんだけどさ。あれたぶん、生き物の生命力の源っていうか、それこそ名前通り核のことだと思うんだよな」


 意識したら分かる。身体の奥――一番根底のとこに力の塊があることが。


「で。この存在核っていうのは、どうも魔力の源になってるらしいんだよ。魔力使う時にどっから湧いてきてるか意識したら分かると思う」


「うーん、ちょっと待ってね。………………わからない」


 フワッと魔力をまとったスノウさんが呟く。ひやっとする氷の魔力が漂ってきた。


「じゃあ、ちょっと手貸して」


「手? はい」


 白いキレイなお手を拝借。ひんやりしてて、握ったらビクッと反応した。かわいい。


 じゃ、俺の魔力を通してっと。


「わ、わ、わ。これエドガーくんの魔力?」


「スノウさんの存在核探そうと思って。コレだってのを俺が教えてあげたら分かるだろ」


「そんなことできるの? ひとの魔力が自分の中で動いてると、なんだか落ち着かないね……」


 ちょっと我慢してくれよ。たぶん、すぐ見つかると思うから。


「これがエドガーくんの……。うん。でも、悪くない。悪くないね……」


 なんかぶつぶつ呟いてるけど。


 おっ、あったこれだ! スノウさんの存在核。


 こいつに俺の魔力をぐぐっと集めてやれば。


「――うわわわわわ! なん……これぇ!?」


「うお、どうかしたか!?」


「わ、わかんないけど! なんかくすぐったいっていうか!? 変な感じが!」


「へー、そんな感覚なんだな。初めて知った」


 じゃあ、はい。魔力散らしますっと。


「どう? いまので分かった?」


「はっ……終わっちゃった。でも、うん……」


 なぜか名残惜しげなスノウさんが言った。


「エドガーくんが言ってるやつのこと。たぶん、分かったよ」


「でも」と言葉を続ける。


「これと強くなること、どんな関係があるの?」


「端的に言うと。存在核を意識したら、魔力をめっちゃ柔軟に操れるようになる。例えばこういう――」


 虚空を握るように突き出した手から魔力を放出して、コネコネと形作ってやれば。


「じゃん。魔力で作った剣」


「な、なにこれ……!」


 スノウさん、目を丸くしてるな。これ、ちゃんと物斬れるからな。


「とまあ、こんな具合に。身体や物を強化する以外に、いろんな使い方ができるようになるんだよ」


 魔力の源である存在核は、口の形を変えていろんな声を出すように、いろんな魔力を作り操れるってわけだ。


 なんでこの話がぜんぜん広まってないのか知らんけど。存在核を感じ取るのが難しいのかな。


「燃費はけっこう悪いけど、盾作ったりもできるし、スノウさんの属性魔力ならもっと色々できそうだろ? これで、スノウさんも強くなれるんじゃ――」


「す……」


「す?」


「すごい――! これなら私も……!」


 おお。こんな感情を爆発させたスノウさん、俺が魔法使ったときに見て以来だ。


「――エドガーくんのこと、傷つけるやつを……!」


 ……なんか物騒だな、喜び方が。まあいいか。


 じゃあ、あとは。


「でも、これってけっこうコツがいるから。今からでもちょっと教えようか」


「いいの!? ぜひ、お願い!」


 まだ朝早いし、評議会のメンバーに会うにも調整がいるだろうし。


 スノウさんにみっちり教えてあげますか――!



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