第7話:迫る影
リヒトとエレノアがそれぞれの夢に向かって歩み始めた頃、彼らの前に立ちはだかる影が濃くなってきた。
ヴェリタス学園のリーダー的存在であるゼクスは、エレノアに執着していた。
最初は単なるいじめの対象として見ていたが、エレノアが自分に反抗し、強くなっていく姿を見て、興味を持つようになった。
そして、それは歪んだ独占欲へと変わっていった。
「ヴァレンシュタイン、俺のものになれよ。俺の言うこと聞いてりゃ、この学校で一番楽に過ごせるぜ?」
ゼクスは、エレノアに露骨な誘いをかけてきた。
「断るわ。私は、誰かの言いなりになるつもりはない」
エレノアはきっぱりと断った。
ゼクスの誘いに乗れば、一時的に楽になるかもしれない。
だが、それは自分の夢を諦めることと同じだ。
ゼクスはエレノアの拒絶に、怒りを露わにした。
「生意気な女だ。そのプライド、へし折ってやるよ」
ゼクスはエレノアへの嫌がらせをエスカレートさせた。
彼女が一人でいるところを待ち伏せしたり、彼女の物を壊したり。
ヴェリタス学園の生徒たちの前で、エレノアを貶めようとした。
ダメ学校という無法地帯で、ゼクスの力は絶対的だった。
エレノアは孤立無援の状況に追い詰められていく。
一方、ロイヤル・アカデミーでは、伯爵令嬢のアメリアがリヒトへの執着を強めていた。
リヒトが公爵家の子息であること、そしてその優秀さに、アメリアは目をつけたのだ。リヒトと結婚すれば、アメリア自身の地位も盤石になる。
「リヒト様、なぜ私を避けるのです? 私では、公爵夫人にふさわしくないとでも?」
アメリアは、貴族学校のパーティーなどで、リヒトに詰め寄った。
「アメリア嬢。俺はまだ学園に慣れていない。それに、今は勉強に集中したい」
リヒトは当たり障りのない言葉でかわそうとした。
「勉強なんて、後でいくらでもできるでしょう? それより、わたくしとの関係を深める方が、リヒト様のためになりますわよ?」
アメリアの言葉の裏には、明確な脅迫めいた響きがあった。
彼女はリヒトが公爵家の落胤であること、そして貴族社会でのコネクションがまだ弱いことを知っていた。
自分の家柄や人脈をちらつかせ、リヒトを言いなりにさせようとしていた。
アメリアは、貴族学校の他の生徒たちを使って、リヒトに関する悪評を流したり、リヒトの行動を監視させたりもした。
リヒトは、自分を取り巻く貴族たちの闇を改めて感じていた。
前世で経験したような、権力争いや裏切りが、この世界でも繰り広げられている。
ゼクスとアメリア。
ダメ学校と貴族学校、それぞれの世界の悪役が、リヒトとエレノアに牙を剥き始めた。
彼らは、リヒトとエレノアが互いに支え合っていることを知らなかった。
知っていたとしても、そんな絆など、自分たちの力で簡単に引き裂けると考えていた。
ゼクスはエレノアを自分の意のままにしようと、アメリアはリヒトを自分のものにしようと、それぞれが画策する。
リヒトとエレノアは、それぞれの場所で、人間関係の複雑な壁にぶつかり、追い詰められていく。
フェンス越しの交流だけが、二人の心を繋ぎ止める唯一の光だった。
だが、その光も、迫りくる影によって脅かされ始めていた。
二人の夢と絆は、これらの障害を乗り越えることができるのだろうか。
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