02 / 05
わたしたちのネタ作りは、いがみあいや一方通行とは無縁だった。舞子の提案に対して、わたしが良いところとダメなところを指摘していく。それを踏まえて、改善していく。
テンポよく、長考することなく、ポンポンとネタは仕上がっていく。
そして完成したネタは、舞台に立つたびに修正されていき、どんどん笑いと拍手を生むようになった。だから、ネタのことで言い合いになって、お互いを嫌いになるということは一度もなかった。
《わたし、家を飛び出してお笑いをやりはじめたので、のこのこと家族の前に姿を現すのって、ちょっと怖いなって思うんですけど、それでも、帰りたいところなんですよね。お父さんやお母さんと、食卓を囲んで、テレビを観て、寝て起きたら、おはようの挨拶をして。
高校生のときまで、いつもしていたことが、家に帰れなくなってから、愛おしくてしかたなくなったんです。毎日のように家に帰っていたころは、「家に帰りたい」って気持ちを抱くのって、なかったはずです。
でも、いまはそうじゃないんです。「家に帰りたい」っていう気持ちが、切実になったんです。そしてその願いを叶えるには、〈漫才ワン〉で優勝するしかない。それは、家族に言われたことではなくて、わたしのなかの決まり事なんです。成功をしたわたしを見れば、ゆるしてくれるかもしれないですし》
ネタが評価されると、お笑いファンから一目置かれるようになる。メディアへの出演も、ぽつぽつと舞い込んでくる。
慣れない取材をいくつか受けたあと、それが雑誌の誌面に載ったときに、話していたことが文字になっているのを見ると、なんだか不思議な感じがした。
わたしたちの漫才が文字に起こったら、きっとつまらないものになるだろうに、
わたしはちょっと寂しくなる。もし〈漫才ワン〉で優勝したら、舞子はわたしのもとから去ってしまうのではないか。そんな気がするのだ。実家に帰ったきり、戻ってこなくなるのではないかと。
わたしたちの、今年の挑戦。
鬼門の三回戦を突破し、準決勝まで進み、決勝にはあと一歩届かなかった。
この二年目の挑戦は、思っていた以上に「上出来」だった。それに、準決勝に残ったことで、敗者復活戦に出場することができる。そこで一位を取れば、決勝のステージに進むことができる。
そして、わたしたちには、それを成しとげる力がある。そういう自信があった。
それなのに、敗者復活戦を一週間後に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。