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 わたしたちのネタ作りは、いがみあいや一方通行とは無縁だった。の提案に対して、わたしが良いところとダメなところを指摘していく。それを踏まえて、改善していく。

 テンポよく、長考することなく、ポンポンとネタは仕上がっていく。

 そして完成したネタは、舞台に立つたびに修正されていき、どんどん笑いと拍手を生むようになった。だから、ネタのことで言い合いになって、お互いを嫌いになるということは一度もなかった。


《わたし、家を飛び出してお笑いをやりはじめたので、のこのこと家族の前に姿を現すのって、ちょっと怖いなって思うんですけど、それでも、帰りたいところなんですよね。お父さんやお母さんと、食卓を囲んで、テレビを観て、寝て起きたら、おはようの挨拶をして。

 高校生のときまで、いつもしていたことが、家に帰れなくなってから、愛おしくてしかたなくなったんです。毎日のように家に帰っていたころは、「家に帰りたい」って気持ちを抱くのって、なかったはずです。

 でも、いまはそうじゃないんです。「家に帰りたい」っていう気持ちが、切実になったんです。そしてその願いを叶えるには、〈漫才ワン〉で優勝するしかない。それは、家族に言われたことではなくて、わたしのなかの決まり事なんです。成功をしたわたしを見れば、ゆるしてくれるかもしれないですし》


 ネタが評価されると、お笑いファンから一目置かれるようになる。メディアへの出演も、ぽつぽつと舞い込んでくる。

 慣れない取材をいくつか受けたあと、それが雑誌の誌面に載ったときに、話していたことが文字になっているのを見ると、なんだか不思議な感じがした。

 わたしたちの漫才が文字に起こったら、きっとつまらないものになるだろうに、舞子まいこの家族への想いは、文字にした方がよく伝わってくる。

 わたしはちょっと寂しくなる。もし〈漫才ワン〉で優勝したら、舞子はわたしのもとから去ってしまうのではないか。そんな気がするのだ。実家に帰ったきり、戻ってこなくなるのではないかと。


 わたしたちの、今年の挑戦。

 鬼門の三回戦を突破し、準決勝まで進み、決勝にはあと一歩届かなかった。

 この二年目の挑戦は、思っていた以上に「上出来」だった。それに、準決勝に残ったことで、敗者復活戦に出場することができる。そこで一位を取れば、決勝のステージに進むことができる。

 そして、わたしたちには、それを成しとげる力がある。そういう自信があった。

 それなのに、敗者復活戦を一週間後にひかえた日に、舞子の両親が交通事故で亡くなってしまった。

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