第二章:新しい日常
⚜️ 20:新しい朝、新しいブラ
選律の儀を終え、二週間が経った。
私は今、リアノスと共にエルデリア城へと馬車で向かっている。本日よりアーシェルたちと共に、継承の巡礼へ出るためだ。
「とうとうだな……リリア。エルデリアでの常識は、ノラと共に出来る限り教えたつもりだ。想定外の事が起きても、機転が利くお前ならなんとか乗り越えられるだろう。——だが、それでも困るようなことが起きたら、こいつに聞くといい」
リアノスはそう言って、一冊の本を取り出した。
「こ、これは、持ち出しちゃいけない物なんじゃ……?」
「なに、問題ない。巻末に名前を書いた者にしか、こいつの声は聞こえない。もし見つかってしまったら、日記とでも言っておけばいい」
魔導書リルス。今では魔導書の存在を知らない若者も増えているという。そもそも今現在、魔導書の生成は禁止されているとのことだ。
リアノスは一見、真面目で大人しそうに見えるが、実は図太く、図々しい一面を持ち合わせている。ここ二週間ほど、一緒に過ごしてきて分かったことだ。
「リリア様! この度の『継承の巡礼』、わたくしリルス、喜んでお供させていただきますわ! 弟のリクスは、今回も地球で活躍しているというのに、私は何故かいつもお留守番で……この世に生成されて、はや22年! 今回こそは——」
「聞いての通り、リルスはお喋り過ぎるのが玉に瑕だ。——だが、お前が地球から来たということを話せる、数少ない話し相手になるはずだ。いつかきっと、役に立つと思う」
リアノスはそう言って、閉じたリルスを私に手渡した。
エルデリア城への橋に差し掛かると、衛兵が私たちの馬車を止めた。金と紺で彩られた制服をまとう彼らは、その服の上からでも屈強な身体の持ち主だということが分かる。
「あの人たち……私なんかより、ずっと強そう……」
「まあ、単純な力比べならそうだろうな。だが、エルデリアでは魔法の力が全てだ。万一、彼らと一戦交えたとしても、指一本お前に触れることは出来ないだろう」
「——そう言えば、入れ替わる前のリリアは魔法を使えなかったんだよね? どうして彼女は、選律の儀に出ることが出来たの?」
「ま、まあ、それもいずれ分かるだろう。——おっ。ザハートたちの馬車はもう着いているな。後で挨拶をしよう、リリア」
動き出した馬車は開かれた城門をくぐり、広大な中庭へと乗り入れた。
***
「おおお、来たかリアノスにリリア! そう言えば、リリアにおめでとうを言えていなかったな、この度は合格おめでとう。それにしても、最後の魔法は凄かったな。まるで、若い頃のリアノスを見てるようだったぞ。——ところで、その後どうだ? ジルハートから記憶が無くなったと聞いていたが……」
中庭へ着き馬車を降りるなり、ジルハートの父、ザハートが声をかけてきた。
「ありがとうございます、ザハートさん。おかげさまでなんとか合格出来ました。だけど、記憶の方は今もまだ……」
「そうか……でも焦ることはない、ゆっくり気長に過ごすといい」
そんな会話をしていたさなか、誰かがクイクイと私の背中を引っ張ってきた。
アルフィナだった。
「出来たから、これ返す。これがオリジナルで、こっちがバルクレア魔鉱交易商会で作った複製品。——どう? たった二週間で作った割には良い出来でしょ?」
アルフィナが手渡してきたのは、彼女が興味を持ったスニーカーだった。オリジナルが多少くたびれていたから本物だと分かったが、どちらも新品だったら見分けるのは難しかっただろう。
「す、凄いじゃない……色も素材も、本物そっくり……」
「色は本物と遜色ないけど、素材はかなり妥協した部分もあるってさ。——ところでさ」
アルフィナはそう言うと、私の耳元に顔を寄せた。
「こんなの、どこで手に入れたのよ。お父様は、エルデリアには無い素材だって言っていたわ」
驚いた私は、ついリアノスに視線を移してしまった。だが、そのリアノスはザハートと談笑をしていて、私たちの会話に気付いていない。
「フフン。やっぱり何かあるみたいね。まあ、今日の所は別にいいわ。——あと、これも渡しておくわね。確か……ブラジャーって言ったっけ」
ブラジャーもスニーカーと同じく、オリジナルと複製品を手渡してくれた。
……っていうか、やめてよ! ブラを丸出しで、手渡してくるのは!!
「おう、久しぶり! なんだよ、リリア。その風変わりなベルトみたいなもんは」
そんなタイミングでジルハートが現れた。
「もっ、もうっ見ないでっ!! あっち行ってよ!!」
突然私に怒鳴られたジルハートは、腑に落ちない表情で肩をすくめた。
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