第35話 まだそんなこと言ってんの

「ケイルッ!! 無事!?」


 爆音と共に吹き飛ぶ扉。煙の向こうから現れたのは、剣を掲げたユウナだった。


「え、ユウナ!? って、レオンもセラも!? なんで──ここに!?」


「こっちのセリフよ! まんまと攫われんな!!」


 ユウナが怒鳴る隣では、セラが即座に結界を展開し、レオンが剣を抜いて前に出る。


「魔力反応──多数、しかも、ほぼ全部殺気混じり……って、こりゃガチで来てるわね」


「誘拐、ってだけじゃねえな、これ……」


 そして、廊下の奥──


「くっ……まずいぞ、あれは……!」


 紅の外套を纏った魔族が後退する。

 その背後、過激派たちの間にざわめきが走る。



「ちょっ……なんじゃありゃ!? 一人ひとりが……もはや魔王クラスだぞ!?」

「人間側に、こんな化け物がいるなんて聞いてねえ!!」

「勇者ユウナ!? 嘘だろ……こっちの計画が……!」


「動揺するなッ! “神輿”を確保するのが最優先だ!」


 そのとき──


「その“神輿”が、目をぱちくりさせてますけど?」


 皮肉混じりの声が割って入る。


 女側近が、剣を片手にケイルの前に立つ。


「さっきからあなたのこと、堂々と“連れ去って洗脳する”って言ってるの聞こえてる?」


「えっ……それって、本当に攫われてたってこと……?」


「当たり前でしょバカ!! 演出じゃないの! これは本物の誘拐未遂なの!!」



(確かに、やけに演出が過剰だとは思っていた……)


 ケイルは、ほんの少しだけ、胸の奥に浮かんだ引っかかりに目を伏せた。


(……え、気のせい、じゃないのか?)



 その一瞬の間を縫って──


「いまだ! まとめて潰せ!!」


 紅外套の魔族が吠える。隠れていた魔族たちが一斉に飛び出した。


「お、来たわね」

「レオン、前頼んだ! セラ、広域いける!?」

「任せろ!!」

「問題ないわ、展開──!」


 三人の最強パーティ+女側近の猛攻が、影の魔族たちを容赦なく蹂躙する。



「ケイル下がって! 巻き込まれるわよ!」


「うわあああっっ!? 魔法陣こんなでかいの使うの!?」


 剣が閃き、雷が迸り、炎が渦巻く。


「こ、こいつら一人一人が……本当に魔王並かそれ以上だぞ!?」

「駄目だ! 計画が、形にならないまま潰される──ッ!」


「ぐっ、撤退しろ! これ以上は──!」


「逃がすかアアアアアッ!!」


 ユウナが剣に雷を纏わせ、真っ向から叩き込む。

 爆風が敵の列を吹き飛ばし、残った者たちは動揺しながら後退していく。


「退け! だがこれで終わりではない」


 紅外套の魔族が、憎悪と不気味な笑みを浮かべる。


「“あれ”が動く……いずれ、この城を飲み込む災厄が訪れる」


 不穏な言葉を残し、過激派たちは闇に溶けるように姿を消していった。



 レオンが剣を納め、セラが結界を解除する。


「……ふぅ。なんとか追い払ったか」


女が、呆れた顔で語りかける。

「で、ケイル。あんた本当に何が起きてるか分かってないの?」


「う、うん。なんか俺……おまけのイベント参加中だと思ってて……」


「イベントじゃないのよ!! これはメインシナリオだって言ってんの!!」


「……いやでも、なんかその、豪華すぎる演出といい、魔王のノリといい……」



 ケイルは、胸の奥にざわつきを覚えていた。


 完全に信じ切っていた“ごっこ遊び”が、ほんの少しだけ──揺らぎ始めていた。

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