第27話 いざ、和平のため魔王城へ

 馬車の中、ケイルは出された茶を飲みながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


(……いやー、演出凝ってるなぁ。荷馬車まで高級感あるし)


 だが、馬車を護衛する勇者パーティは、異なる意味で騒然としていた。


「おい、見たか? あのカップの持ち方……」


 レオンが馬上で呟いた。

「一瞬で毒の有無を見抜いた、ってところか。“識別”系スキルだ」


 セラが言う。

「違うわ。口に運ぶ直前に指で軽く触れてた……“解毒”よ」


 ユウナが真顔で続けた。

「ずっと能力を明かさずに……

 きっと、私たちに重荷を背負わせたくなかったんだよ」



 しん……と空気が張り詰める。沈黙の中で、全員が改めて確信していた。



「やはり、彼こそが“世界を結ぶ者”……」


「新時代の立役者、“双方の英雄”だ」



 一方その頃、ケイルは出された高級紅茶を存分に楽しんでいた。


(この茶、うま……!)


 そんな仕草ひとつも、護衛たちには深遠な意味があるように見えていた。




 その頃、目的地である魔族の城砦──東門でも、異変は起きていた。



「……到着されました。魔王陛下の“御子息”が」


 その報告に、出迎えの魔族たちが一斉にどよめく。



「……ただの人間のように見えるが?」


「ご油断なきよう。あれは“魔王の気配”を完璧に隠し、人間社会の中心に溶け込んでいたのです」



「馬鹿な!?そんなことありえるか!?」

「それはもはや、マインドコントロール……いや、“次元改変”の一種では……?」

「だとすると、完全に魔王クラス……いや、それ以上かもしれん」


 ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音だけが響いた。



 その緊張感の中、馬車がゆっくりと門前に停まり、扉が開く。



 ケイルが降り立ち、にこやかに手を振った。


「どうも〜、ケイルです。よろしくおねがいしま──」

「──ケイル様ァァァアアアアア!!」


 魔族たちが一斉に土下座し、地響きが砦を揺らした。


「うわっ!? ちょ、なにこれ……!?」


 圧倒的な歓迎の嵐に、ケイルは笑顔を保ちながらも

 内心バクバクで後ずさる。


(……すごい、プロの演技ってここまでやるのか!?)



「宴をご用意しております!」

「すべての食材は毒見済みです!」

「お手を煩わせぬよう、全行程に案内役がつきます!」


「え、いや、ほんとそこまでしなくても……!」


 その様子を少し後ろで見ていた女側近は、深いため息をついた。


「……あーあ、またややこしくなってる」



 ケイルは、戸惑いつつも覚悟を決めた。


(いいだろう、どこまでも演じてやる!

 この伝説級の勇者ごっこに、最後まで付き合ってやる!)


 こうして、“魔王の息子ケイル”による和平の旅路は、盛大すぎる誤解のなかで幕を開けた。

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