第10話 それしか説明がつかない……!(勇者視点)

 きっかけは、ささいなことだった。


 テントを畳もうとしていたユウナが、ふと荷物に手を伸ばしたとき、そこに「すでに整理された鞄」が置かれていた。


「……え?」


 口に出すより先に、脳が混乱する。


 確かに今、自分が整理しようと思っていたはずの鞄。

 まるで未来の自分が片付けたみたいに、完璧な状態で並べられている。


 しかも、隣にあった鍋は洗われて乾いていた。


「え、待って、いつ……?」



 セラも混乱していた。


 鍋を洗う役は、自分だった。まだ一度も手をつけていなかったのに──水まで入れ替わっている。


「……まさか」


 レオンが、ぽつりとつぶやいた。


「俺たちが気づかない間に、“瞬間的に作業を終わらせていた”とでもいうのか?」


 3人の視線が、ケイルの方向へ向けられる。


 焚き火の前。のんびりした顔でパンを焼いているケイルの姿があった。



「……気配がなさすぎる」


「今朝の戦闘のときも、気がついたら合流してたし」


「あのとき……俺らの死角から、音もなく現れたよな?」


「ねぇ……」


 セラが、声を潜めて言った。



「ケイルさんってさ、時間、止めてない?」



「──!!」


 セラの爆弾発言に、テント内の空気が一瞬フリーズした。


 ユウナが眉をひそめ、レオンは口をあんぐりと開ける。


「 何言って──」


「いや、待て……」


 レオンが言いかけて、黙った。


 だって──思い返せばおかしい。


 あのとき、魔物を討伐して戻った瞬間。テントなどの荷物が完璧に片付いていた。


 飯の支度も終わっていた。

 洗い物も終わっていた。

 ロープも張り直され、鍋は乾き、綺麗に磨かれていた。


「いやおかしいだろ!? 10分も経ってないぞ!?」


「誰がどう見ても、すぐにやれる量じゃなかったよね……?」


「ってことは──」


 セラが、こくりと頷いた。



「……止めたんだと思う。“時”を」



「やっぱりか!!」


 ユウナが机を叩いた。


「ほら、絶対そうでしょ!? じゃなきゃ説明つかない!!」



「なにあの早業!? 運搬スキルS+!?」

「いや、運搬っていうかもう時空魔法でしょ!!」


「それか、“超加速”!!極限まで反応速度を高めて、周囲の時間が止まって見えるというあれ!!」

「そんなの魔王軍の切り札よりやばいだろ!!」


「なんでそんな人が……“雑用”してんの……」


「それが逆に深いんだって! “動かざること山の如し”だよ!!」

「いや時を止めてんだよ!! 山とか関係ねえよ!!」


 ──勇者パーティの会議は、ケイルの存在によって毎日アップデートされていた。


 もはや彼は、「王の切り札」どころか、


 “時を操る、旅の神”と化しつつあった──。

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