第8話 好きなもの

「だめ……湾田わんだー君」

 目前の男子生徒。

 つい追いつめられるように──

 カーテンレールで仕切られたベッドのある場所まで誘い込んでしまったけど。

「……あなたと私は……生徒と保健室の先生」

 可愛い顔をしていた。癖のない顔だけど、見る人が見ればかっこいいと思う顔だろう。

 逆に言えばみんなそれなりに好感を持つ顔だ。

 それに、細身で色白で……肌がつやつやしてる。今の自分にはない若さがそこにある。

 かといって──私は先生だ。生徒と付き合うなんて……。

 それに湾田君には、もっと素敵な同級生がいると思う。

「そんなこと……どうだっていいじゃないか……!」

 さらに、15は年上の私のことを、こんなに熱烈に思ってくれる熱さがある。

「好きだ……保健室の先生……!」

「湾田君……!」

 そして唇が近づいてくる。

 最近、いつもより派手めな、若い子が使うようなプルプルするリップを付けている。

 気に入ってくれればいいけど。

 しっとりした唇が気持ちいい。

 ──舌を絡めて来る。

 まだ高校生なのに、凄い上手だ。

 若いからこその勢いかな。きっと凄くたぎってるものがある。

 ベッドに押し倒される。

「あは……」

 凄い体が押し付けられてる。

 本人も意図的じゃないだろうけど……きっと身体がそうさせてる。

 私がそうさせてると言ってもいいかな……。

 熱い刺激が走った……厚い手が太腿の裏を撫でていた。

 ……未熟な感想だなって思うけど、こういうとき男性を感じる。

 大きい手だなって。

 手は脚からお尻の方へ──ショーツの生地を撫でて──

 スカートの裾が徐々に上がって──



 カーテンの隙間から覗く私。大事な部分は湾田君の背中に隠れて見えない。

「──」

 ふと、湾田君の動きが止まった。

 すごい勢いある感じだったのに……どうしたんだろう。

 先生の顔もちょっと不思議そう。それから原因に気づいたのか。

「これは……」

 と自分の開いた脚の間を見つめている。

「ワァ!」

 突如ベッドの上を降りると、スラックスをずり上げて飛び出る湾田君。

「わっ……!」

 カーテンの向こうにいた私の驚いてまた悲鳴を上げた。

 スラックスのチャックを閉めながら、保健室を飛び出すと走り去っていく。

「……」

 振り返ると、湾田君の背中を見送る私を見る保健室の先生がいた。

 ベッドの上で一人、はだけた服──ちょっと間抜けな格好だった。

 捲れたスカートの中から覗くのは──カエルのキャラクターが描かれたショーツだった。

 股の所に、大きくカエルの顔がある。

「だめ……だったかな」

 自分の下着と湾田君が走り去っていった方を、交互に見つめる。

「あー湾田君、カエル苦手だから」

 不思議そうな顔で私を見る先生。

「そういえば……いつから見てました?」

 やべ……深く聞かれる前に逃げよう。

「別に、カエル好きなら、自分のしたい恰好すればいいと思うよ」

 それだけ言い残して、保健室を去る。


 校舎の裏口を出たところで──

 保健室の先生呼びに行ったのに逃げちゃダメじゃんと気付く。

 でもまあ、あの状況じゃ呼びずらいよな。

 戻ると華久良は目を覚ましていた。

「あ、富良野さん」

 普通に元気そうに私を見る。

「あれ……大丈夫なの? 星野さん」

「え……何が?」

 ホントに何の話? って感じだった。

「何がって……倒れてたじゃん、泡吹いて」

「何の話? 倒れてないよ。ほら」

 自分の身体を示す華久良。

「あれ……気のせい? ……じゃあ何で私、保健室まで行ったんだろう?」

 腑に落ちないまま華久良の隣に座る。

「無事間に合った?」

「何が?」

「お腹痛くなってトイレ行ったんでしょ? 散々ケバブで当たった、ダメケバブだとか言ってたじゃん?」

 うんうん頷いてるフレンドリーさん。

「えー……そうだったっけなあ」

「そうだよ……おかしいの、富良野さん」

 そう言ってケバブを一口かじる。

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