冒険者

 大きくなった霊獣のブランはフィンを背中に乗せてものすごい速さで森を駆け抜けた。夜がふけて森で野宿をし、翌日の昼には王都ドロアに到着した。ドロアの城下町はとても賑わっていた。フィンが暮らした街アーロンも活気があったが、ドロアの比ではなかった。フィンははやる気持ちを抑えられず、すぐさま町にいこうとするのをブランが止めた。ブランはフィンに得意そうに笑顔を向けると、クルンと一回転した。驚いた事に白猫のブランは美しい少女に変身していた。銀色の長い髪をツインテールにして、肌は雪のように白く、瞳はゴールドとブルーのオッドアイ。フィンは息をのんで聞いた。


「君は本当にブランなの?君みたいな綺麗な女の子、僕初めて見たよ」


 ブランが変身した少女はフフンと得意げに答えた。


「ええ、アタシはブランよ。さぁフィン、これからデートするのさ!」


 フィンは首をかしげた。デートという言葉の意味がわからなかったからだ。フィンは素直にブランに質問した。


「ねぇブラン、でーとって何?」

「フィンはデート知らないの?仕方ないわねぇ、アタシが教えてあげる。それは、そのぉ、えっと、そうよ!二人で町をウロウロとねり歩くのよ!」

「へぇ、それがでーとかぁ」


 ブランの言葉にフィンは安心した。デートとは思ったより簡単そうだった。


 そうと決まれば早速デートをしつつ城下町にある冒険者協会に行こう。フィンはブランの手をつないだ。ブランはビックリした顔をした。


「ブラン、人が多いからはぐれないように手をつなごうね?」


 ブランの顔がボンっと赤くなった。フィンが心配げに聞く。


「手をつなぐのは嫌かい?ブラン」


 ブランは顔を真っ赤にしながら答えた。


「仕方ないわねぇ。フィンに迷子になられたら困るから、手をつないでいてあげるわ!」

「ありがとうブラン」


 ブランの手をつないだフィンは賑やかな露店を見ながら歩き出した。キラキラと宝石のように輝く果物、フィンが見たこともないような魚を並べた鮮魚店、大きな肉のかたまりをぶら下げた精肉店。店の人々は活気ある声で客を呼び込んでいた。フィンはブランと共に物珍しげにキョロキョロと歩いていた。その時、フィンたちを呼び止める声がした。フィンが声の方に振り向くと、そこにはガラの悪い二人組の男が立っていた。男の一人が言った。


「見ろ!俺の言ったとおりだろ?そこいらじゃあ拝めねぇ綺麗なお嬢ちゃんだ」


 もう一人の男もうなずいてブランにはなしかけた。


「なぁ嬢ちゃん、こんな田舎くさい小僧なんかよして俺たちと遊びに行かねぇか?」


 どうやらこの二人組の男はブランを連れて行こうとしているようだ。フィンはブランを背中にかばうと小声で言った。


「ねぇ、ブラン。この男の人たちを植物魔法で拘束してくれないか?」

「・・・、できない」

「えっ?!何で」


 フィンが驚いてブランを振り向く。ブランはこの世に百年以上生きる高貴な霊獣だ。ブランは人間など足元にもおよばない魔力を有しているはずなのだ。ブランは泣き出しそうな顔でフィンに言った。


「アタシは今人間になる魔法を使っているから、今は他の魔法を使えないの」


 フィンは理解した。どうやらブランは人間になる魔法を解きたくないらしい。フィンはブランに笑いかけて言った。


「そうだね、今はでーとの最中だ。ブランは後ろに下がってて、ここは僕が何とかする」


 フィンは厳しい顔で男たちに言った。


「この子は僕の大切な人だ!お前たちには絶対渡さない!」


 タンカを切ったフィンを男たちはニヤニヤと笑った。無理もない、フィンは小柄な少年で、男たちは大柄だったからだ。男の一人は意にかいさず、ブランに近寄ろうとした。フィンはすかさず男の腹にしがみついた。男はうるさそうにフィンの腰のベルトを掴むと、ヒョイッとフィンをぶん投げた。フィンはポーンと地面に投げ出された。男は何事なかったように再びブランに近づこうとした。だが男は足を進める事ができなかった。下を見ると、先ほどぶん投げたフィンが足にかじりついていた。男は怒りをあらわにし、身体をかがめてフィンの顔を殴った。フィンの頬は腫れ、鼻血がふき出した。ブランが悲鳴をあげる。フィンはそれでも男から離れなかった。男は顔をゆがめ、もう一度フィンを殴ろうとした。


 その時、フィンたちの目の前に男が立ちはだかった。男は静かに言った。


「大の男二人がかりで子供をいじめて恥ずかしいと思わないのか?」


 フィンは不思議そうに男を見上げた。その男は鎧を身につけていて、腰には剣をさしてした。どうやら戦士のようだ。男は身体をかがめて右手を差し出した。フィンはその手を不思議そうに見つめて、そして合点がいった。どうやらこの戦士はフィンに手を貸してくれているようだ。フィンがその手を掴むと、グイッと立ち上がらせられ、戦士の背後にかばわれた。フィンを殴っていた男は、ニヤニヤと笑みを浮かべ、フィンに意識が向いている戦士に殴りかかった。


「危ない!」


 フィンは声を上げた。自分を助けてくれた戦士が殴られてしまうかと思ったからだ。だが戦士は涼しい顔をしたまま左手で男のこぶしを受け止めた。そして、まるでドアノブをひねるように男の手をひねり上げたのだ。


「ギャァァ!!」


 男の右手はおかしな方向に曲がってしまった。驚いた事に戦士は一瞬で男の肘関節を外してしまったようだ。もう一人の男が戦士に殴りかかる。戦士はそのこぶしを軽く顔を傾けてよけながら、フィンたちに振り向いて言った。


「おいガキ共、早く逃げろ」


 フィンはブランに引っ張られて何とか立ち上がり、戦士への礼もそこそこにその場を逃げ出した。


 


 

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