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 「それでは時間になりましたので、これから県立高校の教職員向けパソコン研修を始めさせていただきます。私、本日講師を勤めさせて頂きます、株式会社オーケーコンピュータの岡林と申します。よろしくお願いします」

 大柄な若者が職員室いっぱいに響きわたる声であいさつした。

「本日はアシスタントが二名、いや失礼しました、一名おりますので、講義でわからない点などございましたら挙手をお願いします。すぐにアシスタントが駆けつけて説明させて頂きますのでよろしくお願いします」

「本日アシスタントを勤めさせていただきます、株式会社オーケーコンピュータの内山と申します。よろしくお願いします」

 スクリーンを挟んで岡林の反対側にいた小柄な若者は、あいさつをすると、すぐにハンカチで顔の汗を拭いた。

「それではまず、パソコンを起動して、ログイン画面を表示させて下さい」

 岡林がスクリーンに映し出されたパソコンのログイン画面を棒で示した。長谷川はパソコンの電源ボタンを探し当て、押した。画面にはTOSHIBAのロゴが表示された。

「ん? スクリーンに表示されているのと全然違うな?」

 そう思った瞬間、画面は暗くなり、すぐに真っ青な画面に切り替わった。

「あれ? なんで?」

 長谷川は手を挙げた。岡林が長谷川の挙手に気づき、内山に目で合図をした。

「どうしましたか?」

 内山が長谷川の席に駆けつけた。

「パソコンの画面が違うんだけど」

「あっ、大丈夫ですよ。すぐにログイン画面が表示されますので」

 内山は丁寧な口調で応じた。しばらくすると長谷川のパソコンにもログオン画面が表示された。別の教員が挙手をしたので、内山は彼の所へ向かった。

「ユーザ名には先生方各自の教職員番号と、小文字でuserを入力して下さい。パスワードには教職員番号を入力して下さい。入力したらOKボタンを押して下さい」

 教職員番号? いくつだっけ? テキストを見てみたが、さすがに教職員番号を調べる方法までは書かれていない。

「教職員番号は先生方の保険証に書かれていますので、わからない方はそちらをご覧下さい」

 ちょうど困ったタイミングに彼らは気が利くなあ。少し感心しながら、長谷川はスーツのポケットから財布を取り出し、保険証の番号を見た。指示通り入力すると、OKボタンを押そうとしたが止めて再び挙手した。すぐに内山が駆けつけた。

「一体これは何のために入れるんですか?」

「えっとですね……パソコンを使うためです。最初に必ず行います」

 内山は少しだけ左の眉をひきつらせてから、丁寧な口調で答えた。

「はあ……」

 そりゃ、パソコンを使うためってことぐらいはわかるけどさ……長谷川はそう口に出そうとしたがやめた。他にも数人、挙手をする教職員がいた。内山は彼らに気づいて少しだけ目をパチパチさせた。

「毎回最初に必要ってことですか?」

「はい。家に帰る時に鍵を開けるのと同じ感じです」

 そう言われるとわかったような気がした。

「ああなるほどね。ありがとう」

 とっさに礼の言葉が出た。内山は小さくお辞儀をすると、逃げるようにして、挙手を行った別の教職員の方へ消えていった。長谷川のパソコンからはすぐにデスクトップ画面が現れた。

「お、変わった。すごいすごい」

 生まれて初めてパソコンを起動した。たったこれだけでも、長谷川にとってはちょっとした成功体験だった。

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