第16話 お義姉ちゃんの急成長

 お義姉ちゃんがどんどん強くなっている。


 昔からただワタシの配信を見てただけじゃなくて、ちゃんと細かく分析してたみたい。


 モンスターの動き、攻撃パターン、急所の見抜き方……etc, etc。

 それを実戦で応用して、次々と倒していく。


 まさかこれまで、学校の授業でしか探索をしていなかったなんて到底思えない。


 この一週間だけで、たぶん、ワタシの同行なしでも、Cランクのダンジョンくらいなら1人で踏破できそうなほど力をつけている。


「FからCって……」


 思わず声が漏れると、お義姉ちゃんは照れたように頭をかいた。


「いやぁ、朔ちゃんのおかげだよ」


「ほんと? うれしい」


 そう言ったけど――

 ほんとうは、素直にうれしいだけじゃない。


 Cランクなんて、普通は2年くらいかけて上がるランクだ。

 ワタシだって、1年かかった。


 それを、たったの一週間。


 才能と努力が揃ってても、ここまで急成長できる人なんて滅多にいない。

 ……それにまだまだ伸び代が見える。はっきりと。


「……まるで、ワタシはもう必要ないみたい」


「ん? なにか言った?」


「ううん、なんでもないよ」


 弱音がついこぼれてしまって、慌てて飲み込む。


「わたしには、なんでも言っていいんだからね?」


「ありがとう。でも、ほんとになんでもない」


「そっかー」


「ただ……嬉しさを噛みしめてただけ」


 ――うれしい、は本心。

 けれど、心の底から笑えているかと聞かれたら、正直、自信はない。


 今のワタシ、どんな顔してるんだろう。


「頼っていいよ」って言ってもらえて、ちょっとホッとした。

 やっぱり、甘えられるって安心する。


 でも――


 目の前で、背丈以上のモンスターに立ち向かうお義姉ちゃんの背中を見ていると、足場が崩れていくような、落ち着かない気持ちになる。


 ああ、ワタシ……ダンジョンでの能力を、きっと心の拠り所にしてたんだ。


 そんな自分が、ちょっとイヤになる。


「……ちゃん、朔ちゃん。朔ちゃん?」


 顔をのぞき込まれて、ハッと我に返る。


 しまった、ダンジョンの中でぼうっとしてた……。

 ワタシらしくない。


「な、なに? お義姉ちゃん」


「体調悪いのかなって。なんか今日、口数少ないから」


「……」


 優しさは、変わらない。

 ワタシの内心なんて知らずに、ちゃんと心配してくれる。


 ――だからこそ、悔しい。


 そんな彼女に、まだ“力”で勝てていることに、安堵してしまった自分が悔しい。


「……ううん、大丈夫。ただ、お義姉ちゃんの成長スピードがすごいなって感心してただけ」


「朔ちゃんほどじゃないってば」


 それは、謙遜だ。


 ワタシの方が先に始めてたから、たまたま先を走ってるだけ。

 今のペースなら、あっという間に抜かされる。


 そう思うと、手が少し震える。


 お義姉ちゃんは、ワタシの強い魔力にもすぐ慣れて、無邪気に笑いながら、モンスターすら避ける空気の中に平然と立ってる。


 ……才能だ。ほんとに。


「もし何か恵まれているとしたら、それはいい先生がいるからだよ?」


「いい先生……、あっ、エスメラルダさんか」


 なんとなく予想していたけど、言われるとちょっと胸が痛い。


 ワタシの知らないところで力をつけてたんだなって。


 けど――


「それもあるけど、わたしの先生は朔ちゃんだよ。いや、Sakuかな」


「……ワタシ?」


「うん。わたし、Sakuの動きを真似しようとしてただけなんだよ?」


「真似……」


 それができちゃうんだから、やっぱり天才なんだ。

 ワタシの動きは、配信じゃ真似できないってよく言われるものなのに。


 そもそも、ダンジョンなんて、陰の中の陰――、陰キャの中でもさらに日陰者が居場所を求めて潜る場所だ。

 そんな世界に、彼女はもう迷いもせずに踏み入ってる。


 性格もよくて、強くて、優しくて。

 1人でダンジョンに潜れるようになったら……、ワタシなんて、ほんとにいらなくなるのかも。


 不安と恐怖で、胸がぎゅっとなる。


 でも。


 1人じゃなくていい。

 そう思えることが、たまらなくうれしい。


 勝手に距離を置こうとしてるのは、ワタシの方なんだ。


 ……義理だろうと、家族になったんだもん。


 きっとこれからも、長い付き合いになる。

 だったら、逃げないで向き合わなきゃ。


 お義姉ちゃんと、ちゃんと。

 ――一緒に、歩いていけるように。

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