第15話 秘密裏の支援と領地の変貌
リオンの騎士領での再会から、一ヶ月が経った。
あの日以来、私は転移魔法を使い、
秘密裏に彼の領地へ通い詰めていた。
(ふふん、私の計画通りね!)
昼間は完璧な侯爵令嬢アリシア・フォン・グランツベルク。
家庭教師について勉強し、
社交界での振る舞いをこなし、
貴族の知人との談笑に花を咲かせる。
(はぁ、退屈なったらありゃしない!)
内心で大あくびを噛み殺しつつ、
優雅な笑顔を貼り付ける。
夜になれば、私は冒険者アリシア・ベル。
そして、リオンの秘密の協力者だ。
セシリアに見送られ、隠し扉を抜け、
王都の空から、リオンの領地へと転移する。
この秘密の二重生活が、
私を二倍忙しくさせていたが、
それでも、リオンに会える喜びには代えがたかった。
(疲れるけど、これも愛のためよね!)
そう思うと、どんな苦労も乗り越えられた。
リオンの領地は、まだまだ未開の地が多かった。
彼の執務室に、夜中に転移で忍び込む。
彼が書類に目を落としながら、
疲れた顔でペンを噛む姿を見るたび、
胸がチクリと痛んだ。
(まったく、相変わらず不器用なんだから)
彼が寝静まった後、私は密かに活動を開始する。
前世で得た知識が、ここで存分に活かせるのだ。
まずは、効率的な農法の導入だ。
私は、転移魔法を使って、
王都の図書館から農業に関する古文書をこっそり運び出し、
夜中にそれを読み漁った。
(ふむふむ、この土壌なら、この作物が育ちやすいのね!)
文献から得た知識を、
現地の土壌に合わせて調整する。
そして、転移魔法で少量の改良種子を運び込み、
密かに領民に配る、という魔法的な手品も使った。
(これを育てれば、収穫量が三倍よ!
驚きなさい、リオン!)
さらに、水利システムの改善にも着手した。
転移魔法で、領内の水源から、
必要な場所へと水を引く簡単な水路の設計図を描く。
これらは、あくまでリオンが「発見した」
「考案した」という体で、
領民に提案させるように仕向けた。
時には、リオンが昼間に領地を視察しているところに、
私がこっそり転移して合流することもあった。
領民たちが、彼の周りに集まり、
熱心に話を聞いている。
リオンも、真剣な顔で彼らの話に耳を傾けていた。
「領主様! この作物が、今年は例年になく豊作でして!」
「水路の改良も、おかげさまで滞りなく進んでおります!」
領民たちの喜びの声が、リオンの元に届く。
リオンは、照れくさそうに頭を掻きながらも、
誇らしげな顔で頷いていた。
「まあ、これも俺の指導の賜物だからな!」
彼がちょっと調子に乗って、
胸を張る姿を見るたび、私は内心でフッと笑った。
(ふふん、全部私の手柄なんですけどね!
今度褒められたら、ちょっとだけネタばらししようかしら。
そしたらきっと、あの顔で照れるんだろうな……!)
私は木の陰に隠れて、
こっそり彼らの様子を観察する。
まさに秘密のエージェントだ。
(絶対にバレたくない。でも…ちょっとくらい気づいてもいいのよ?
もう、バカなんだから!)
領地の発展は、目覚ましかった。
農作物の収穫量は飛躍的に増え、
領民たちの顔には、活気が戻っていた。
リオンは、その変貌ぶりに驚きつつも、
自分の努力と「偶然の幸運」の結果だと認識していた。
(全く、鈍感なんだから。
もう少し、私の労をねぎらう言葉でもないのかしら?)
内心で不満を漏らしつつも、
彼が、この領地を、そして領民を、
心から大切に思っていることを知っている。
彼の喜びが、私の喜びでもあった。
夜、リオンの執務室で、
彼は疲れた顔で書類を広げていた。
俺は、もうしばらく、この場所で、
騎士爵としての責務を全うするつもりだ。
(この領地を、もっと豊かにするんだ……。
いつか、アリシアを、この場所に呼ぶためにも)
彼が、小さくそう呟いたのを、
私は転移魔法で彼の隣に座り込み、
そっと彼の肩に頭を乗せて聞いた。
彼の体温が、じんわりと私に伝わる。
「……何してるのよ、こんなところで。
早く寝なさいよ、バカ」
私は、彼の黒い髪にそっと指を絡めた。
疲労に甘えるように、彼の肩に凭れかかる。
「アリシア……?」
リオンは、驚いたように私を見た。
だが、すぐにその表情は緩み、
俺の頭をそっと撫でた。
「お前が来てくれると、疲れが吹き飛ぶぜ」
その言葉に、私の胸は、甘く締め付けられた。
(ふふん、私の魔法にかかれば、
疲労回復なんて朝飯前よ!)
内心で得意げに笑いつつ、
彼の隣にいる心地よさを噛みしめる。
秘密裏の支援は、
着実に二人の絆を深めていた。
「……よく頑張ってるわね。
私が保証するんだから、もっと自信持ちなさいよ」
私は、小声で彼の耳元に囁いた。
リオンが、ふいに顔を赤くする。
「お、お前……!」
その照れたような声が、私には何よりも甘いご褒美だった。
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