村祭り、薬草店は今日だけ出張営業中!

「おにいちゃーんっ! 今年も“ハース村夏祭り”だよーっ!」


朝の静寂を突き破って、フィナが縁側を駆け抜けた。

後ろからは、木の桶を抱えたクロエが「やるぞぉぉぉ!」と叫んで突進してくる。


……うるさい。朝ティーの時間、返して。


「なんでみんなそんなに元気なの……今日は休みの日だぞ?」


「だからこそ! お祭りでしょ!」


「そうだレン! 村長が『お前の店も出店しろ!』って言ってたぞ!」


「いやいやいや! ハーブ店が祭りに出ても売れるもんないでしょ!?」


「おにいちゃん、安心して! 私たちが準備手伝うからっ!」


「うわぁ……もう逃げ道ない……」


こうして俺は、しぶしぶ屋台デビューを迎えることになった。




◆ “レンの癒し屋台”爆誕


クロエの力仕事とフィナの飾り付けで、わずか2時間で立派な屋台が完成。


のれんには、


「癒しと安らぎのハーブ亭🌿」

~飲めば天使も眠る?~




……誰がこの煽り文句考えたの? クロエだな絶対。


「よしっ、メニューも貼っといたぞ!」




メニュー表:


深眠ブレンド・白夢 …… 2銀貨


元気回復!朝用ブレンド …… 1銀貨


恋するラベンダー(※効果に個人差あり) …… 1.5銀貨


クロエ特製:斬りたくなるブレンド …… 非売品(危険)





「なんでその最後の入ってんの!?」


「試作品だ。気合が入りすぎて、壁を斬ったくなった」


「ダメだろそれ……」




◆ 思いのほか、大人気


正直な話、誰もハーブティーなんて飲まないと思ってた。

でも――


「おぉっ、これが噂の“ドラゴンを眠らせる茶”か!」


「なんか……体が軽くなった……!?」


「このラベンダーの香り……私、恋したかも……」


想定外に大人気。


特に村の奥様方と老人層に大ヒット。


「レンくん、来年も出してね!」


「若返った気分じゃ!」


「私、ハーブ教信じます!」


宗教化してない!? やめて!?




◆ 謎の挑戦者、現る


夕方。人だかりの中から、ひとりの男が俺の屋台に近づいた。


金縁のローブ、つんと上がった顎、手には金の匙――

いかにも“自称・本物のハーブ職人”って顔をしてる。


「ふん、これが“王女も虜にしたハーブティー”とやらか」


「はい、それなりに自信作ですけど……誰?」


「我は王都のハーブ専門店セレシア堂店主、ガレオス・ミストリア。

今年の《王都品評会》で最高金賞を獲得した男だ」


「それで、何の用?」


「お前の実力を見極めるため、“ハーブ対決”を申し込む!」


「帰ってもいいですか?」


「逃げるのか? 所詮は田舎の野良草煮込み屋か?」


……あ、これ完全にスイッチ入った。




◆ ハーブ職人対決! ~村祭り番外編~


司会(なぜかクロエ)が叫ぶ。


「勝負内容は――【即興ブレンドティー対決】!!」


お題:「疲労回復」「リラックス」「少し甘い」


制限時間:15分


ガレオスは金の瓶から丁寧にハーブを取り出し、まるで芸術家のように調合し始めた。


俺はというと、

近くの畑に生えてるマーナミント、セラリア草、ヒスティアの花弁をサクッと摘んで、

湯を沸かす。


「んー、今日はハチミツ入れずに、ドライアプリコットでも入れてみようか」


それだけ。


周囲:「え、そんだけ!?」「簡単すぎない!?」




◆ 審査の時


まずはガレオス。


「……これは上品だ」「確かに金賞クラスかも……」


そして俺の番。


老人:「おぉ……目が開いた……」


奥様:「これ……家に持って帰っていい!?」


子ども:「あまーい!!」


フィナ:「おにいちゃん、勝ちだね!」


クロエ:「我が軍の勝利である!!!」


ガレオス:「な、なぜだ……!? 何が違う……!!」


俺:「うーん……愛情と、経験と、草の育て方、かな?」




◆ 祭りの終わり、静けさ戻る


夜。

提灯が揺れる中、俺たちは縁側で祭り帰りのティータイム。


「今日は……楽しかったな」


「おにいちゃん、ちょっとだけ目立ってたよ」


「……少しだけ、な」


「でもレン、また名刺作っただろ?“ハース村の癒し神”って書いてあったぞ」


「ち、違う! それは村長が勝手に印刷して!」


「くくっ……まぁ、悪くない祭りだったな」


夜風に乗って、ミントの香りと笑い声がふわりと流れた。


俺のスローライフは、またひとつ賑やかになっていく。

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