第11話 新選組発動

 土方は、あまり酒が得意ではない。

 それでも、隊が初めておおやけに功をせいした祝宴だ。

 意気揚々の隊士等のしゃくを拒み、気概をそぐのは本意ではない。


 ましてや面子めんつを潰されたなどの私怨しえんになっては、士気にも関わる由々しき事態。

 土方は渋い顔をしながらも、隊士の酌は残らず受けた。

 その傍らでは近藤が両脇に芸妓をはべらせ、次から次へと杯を傾け、一人で悦に入っている。


 一方、近藤を挟んで土方の対極に座る山南は、土方と同列の副長の地位にありながら、ひら隊士達の視界にも女の視界にも入らないのか、見るからに侘しく手酌で酒を呑んでいる。

 

「山南先生。おひとつ、いかがですか?」

 

 声をかけられ、ふと目を上げると、徳利とっくりを掲げた沖田がふわりと笑んで膝をつく。色白で、優しい顔立ちの沖田が奥二重の目尻や頬をほんのり紅潮させている。

 まるで生娘のような色香が漂い、ドキリとする。


「先生は、よしてくれよ」

 

 山南は快く酌を受けると、すかさず沖田に返杯した。

 暑苦しくなり衿を広げ、胡坐をかいて言い返す。


「君の方こそ、その若さでこれから一番隊隊長の重責を担うんだ。大したもんだよ、沖田先生」

「いやだなあ。私は単に使い勝手がいいだけですよ」

 

 この男にしては珍しく呂律ろれつが怪しくなっている。

 人当たりが良く、美男の沖田に酌をしたがる隊士が大勢いたのだろう。


「ところで、山南さんは短銃を扱ったことは、ありませんか?」

「短銃? ピストールかい?」

「はい。実は、これなんです」


 沖田は膝の上で紫のふくさを左右に開き、銀の銃身をちらりと見せた。


洋銃指南ようじゅうしなんの方々も、短銃となると勝手が違うとおっしゃられて困ってるんです。山南さんは博学でいらっしゃるから、扱いもご存知なんじゃないかと思って」

「とんでもない。私だって実物なんて初めて見たよ」

 

 山南は両手を胸の前で振りながら、大きく体をのけぞらせ、手に取ろうともしなかった。

 ほどなく芸妓をはやしたてる野太い声と手拍子と三味しゃみの音色にあわせつつ、

酔った隊士が尻からげをしてを踊り出す。


「……そうですか。申し訳ございませんでした。こんな無粋な話をして」

 

 しゅんと肩を落とした沖田は絹のふくさを折り畳む。

 しかし、口調も動作も緩慢だった沖田がふいに真顔になる。 

 沖田は人目を避けながら、廊下に出ていく土方の背中を目端で捉えていた。


「失礼、先生。私もちょっとはばかりに」

 

 すっくと沖田は立ち上がり、一礼をして後を追う。

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