第四十五話 心理料理都市・エモティオネと、本音が可視化される食卓

「……あの子、本当は“孤独”を感じてるわ」


「見て、あの青年は“怒り”が全身に渦巻いてる」


《エモティオネ》では、人々の感情は“料理”によって色として現れる。


- “喜び”は金色の光

- “悲しみ”は青い雨のような粒子

- “後悔”は紫色の霧

- “恋心”は淡い桃色の風

- “孤独”は色を持たない影


この街では「食べる」という行為は、

同時に「心をさらけ出す」ことでもあった。


アリシアは言う。


「この街では、誰もが“素直になれない料理”を探してるのよ」


* * *


ある日、彼女の前に現れたのは、笑顔を貼り付けた少女・**エリーナ**。


「ねぇ、アリシアさん。

 “本音を見せずに食べられる料理”って、作れるの?」


彼女の悩みは、「他人の前で弱さを見せたくない」こと。

食べることで“感情”が露呈してしまうこの街では、

彼女のような“感情を隠したい人間”が苦しんでいた。


アリシアは静かに微笑む。


「ううん、私は逆よ。“本音を見せていい料理”を作るの♡」


* * *


彼女が作ったのは、

**《やさしい嘘のミネストローネ》**。


- ごろっと大きな野菜:隠していた想いを優しく浮かべる

- 味は深いのに、決して濃すぎない:心の負担を和らげる

- スープの温度は、ちょうど“人肌”くらい:安心感と許しを与える


そして仕上げに、

“嘘をつくことは悪いことじゃない”というスパイスを少し。


エリーナがスプーンを口にした瞬間――

桃色の風がふわりと舞った。


「……これは、わたしの“好き”の味……?」


「ずっと誰にも言えなかった、好きな人への気持ち……。

 怖くて、ずっと飲み込んでた……でも、出てきちゃった……」


彼女は泣いた。

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