第二十八話 感情変化王国・エモテールと、心を喰らうスープ

「この国の料理……“心”によって味が変わるって?」


アリシアが問いかけたその先で、

老婦人が、にっこりと微笑んだ。


「そうなのよ。食べる人の感情が、皿に映るの」


「……たとえば、どんなふうに?」


「罪を隠したままスープを飲めば、**苦くなる**」

「愛を偽れば、**塩気が失せる**」

「真実だけが、“最高の旨味”を導くのよ」


ここは、**感情が味に宿るエモテール**。


裁判にも嘘発見器にも料理が使われるという、奇妙な国だった。


* * *


アリシアは王城に招かれる。


「君が、“感情を超える料理”を作る女かね?」


そう尋ねたのは、この国の若き国王――**シア・レオクレスト陛下**。


彼は、ある“謎の毒殺事件”を料理で解決してほしいと依頼する。


「被害者が最後に食べたスープが、**“砂の味”だった**のだ」


「それは……“絶望”を意味するわ」


アリシアは頷いた。


「料理で人の心を見抜くのは、私の得意分野よ♡」


* * *


アリシアは、毒殺された貴族の周囲にいた者たちを招き、

“記憶の再現料理”を一人ずつ振る舞っていく。


その料理――**“心を喰らうスープ”**には、

食べる者の**感情の色**が浮かび上がる。


- 嘘をついた者のスープは灰色に

- 後悔を抱く者のスープは濁り

- 真実を抱えた者のスープは澄み渡る黄金に


スプーンを運ぶたび、

皿の上で“心”が暴かれる――


「……うそ……私、何もしてない……!」


「この味……なんで、こんなにしょっぱいの……!」


ついに一人の男のスープが、**真っ黒に変わった。**


「お前だな……!」


「……ぐっ……なぜ料理でわかる……!!」


「わかるわよ。だって、料理は“あなた自身”を写す鏡なんだから」


アリシアは、真実の味で事件を暴いた。


* * *


事件の解決後。


王は静かに語る。


「この国は、人の感情に支配されすぎてしまった」


「“真心だけが料理を輝かせる”はずが、

逆に“料理で心を縛る”ようになってしまったのだ」


「あなたはどう思う?」


アリシアは、そっと最後のスープを差し出した。


それは、温かく優しい、コンソメ仕立ての一杯。


「これは、“想いを受け止める味”よ」


「味を決めるのは、“心”だけじゃない――**誰かの心を信じること**なの♡」


王は、その味に涙した。


「……これは、私の母の味だ……ありがとう」


* * *


ライザが帰り道で言う。


「で、次は?」


「“世界一辛い国”があるらしいの♡」


「また極端だなオイ!」


「ふふっ、唐辛子で人を黙らせるっていう、**“激辛検閲国家”**なんですって」


「料理の自由って、どこ行った……」


「取り返すのよ♡ 舌の、心の、自由をね!」


ふたりは再び、激辛の国へと旅立った。

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