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 怜に先導されて、二人はおずおずと邸内に足を踏み入れた。すると、そう何歩も行かないうちに前方から人影が近づいてくる。


「怜、帰ってきたのか。どうだったかい、劇場は――」

「ご主人様、私は悪い報せと良い報せをお伝えしなければなりません。まず悪い報せとして、劇場は既に建設されており、今日がまさに杮落としの日でした。私が馳せ向かった時は既に、崩落した後でございました」

「まさか!」

「死傷者が多数出ております。ひとまず、近隣地域含めて人々の救助と治療に全力を尽くし、物資や人材の不足があれば直ちに連絡させるよう指示しました。私とともに向かった調査員二人が現地に残っておりますから、事あればこの二人から話が参りますでしょう。……そして、良い報せですが。劇場跡でこちらのお二人を発見いたしました」


 大惨事の顛末を聞いて悄然としかけた彼――如月露路だったが、その後にもたらされた「良い報せ」が、俄かに彼を蘇生させた。


「ああ、瑶子さん! それに紗百合さんも――」


 興奮のためか、彼は瑶子の手を取ったきり、何も言い得ずにいる。紅潮した頬と潤んだ瞳とが、彼の思いの深さを現して余りある。瑶子も同じようなもので、ただその黒眸からほろほろと涙の玉を落としているばかりだった。彼女は今、相手があの仮面の青年のひとりだということが、よく了解できた。顔は初めて目にするけれど、その眼差しにも声音にも、昔日の慕わしさと同じものを感じられたので。


 しかしながら二人の邂逅は、実際はそう長く続いたわけではなかった。ゆっくりと再会を喜べるような状況にないことくらい、二人ともよくわかっていた。


 彼ら四人は露路の私室に移動し、そこで話を続けた。初めに口を切ったのは、紗百合である。


「露路さん。私と瑶子の旅の目的は、初めからここだったのよ。この如月の土地を我が物にしようと企む輩がいる。それを伝えるために、踊子のなりをしてここまで来たの」


 彼女はそう前置いて、また周囲に立ち聞きしている人物がないことも確認したうえで、打ち明け始めた。即ち、央間道鷹が富貴利男と結びついて、この辺りの土地を掌中にしようとしていることを。それを聞き知った彼女と、仲間の瑶子を躍起になって探し回っていることを。そして恐らくは、今日の大劇場崩落の事件も、道鷹らの計画の一ではないかと、件のプレートの一件も含めて話した。


 全てを語り終えた後、彼女は次のひとつの問いを発して、口をつぐんだのだった。


「央間氏と富貴氏は、この如月にあるというダイヤモンド鉱山を狙っている。でもそんなもの、本当に存在しているの?」


 ……露路は暫しの間、沈黙していた。顔を少し俯けて、右手の指にはめた指輪にじっと目を落として。


 紗百合も瑶子も、祈るような思いで、彼の口が開くのを待つ。


 どれほどそうしていたか、露路は重苦しい空気を払うようにさっと立ち上がった。


「露路さん?」

「あなた方も、これから見に行こう……ダイヤモンドの鉱山はないが、それに匹敵するくらい大切な場所のひとつが、すぐ近くにあるから」


 彼は何やら、微笑んでいた。

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