第34話 志望校
11月下旬、2学期の期末テストが実施された。私は学校を休んだこともあって焦りもあったけれど、前よりも体力が回復した、というか体力がついたような気がしていた。そのおかげでどうにかテストを乗り切ることができた。
あの時学校で倒れてしまったけど、それまで根を詰めていたことを考えるとダウンしちゃうよね。私が目指すのはやっぱり
そして竹宮くんと――
2日間のテストが終わり、帰ろうとしていると竹宮くんが「お疲れ」と言って席まで来てくれた。ちなみに試験中は出席番号順の席なので彼とは少し離れている。
竹宮くんが離れた席の自分にところに来るなんて、見られていたらどうしようと思っていたけど、みんなは早く帰りたいのかすぐに教室を出ていく人が多かった。
「終わったー! 奈々美お疲れー!」
「ねぇクリスマスどうするー?」と言いながらすみれちゃんも女子達と帰っていく。
「はぁ、やっと2学期のテスト終わったな」と竹宮くん。
「そうだね」
「梅野さん……ちょっと聞きたいんだけど……」
「うん」
「あのさ……」
その時だった。
いつもの大きな姿に低い声が響く。
「そこの2人、早く帰るんだぞ」
「「あっ……」」
一言だけなのに、竹宮くんと声が重なって私は顔が赤くなりそうだった。
「はい……」
そう言いながら私たちは教室から出る。階段を降りながら竹宮くんと顔を見合わせて笑ってしまう。
「いつも松永ってタイミング良く来るよな」
「そう! どこかで見ているみたい」
「いきなりじゃなかったら怖くないのに」
「ハハ……」
そして帰り道で竹宮くんが話し出す。
「前に梅野さん、
そうだ。あの時松永先生に話を聞いてもらって、無理しない“強さ”も大事だって言われて――そのあとお母さんには話したけれど、テスト前で慌しかったから竹宮くんには話せていなかった。
「私は星山岡を目指すことにしたよ。やっぱり自分に合ったところがいいなって思って。野城川のことを考えなくていいんだって思ったら勉強もうまく進んだ気がする」
「本当? あぁー良かったー!」
竹宮くん、めちゃくちゃ嬉しそう。
もしかして……私が星山岡にするか気にしていたのかな。
「うん。もともとそこを目指してたから……竹宮くんは?」
「もちろん、梅野さんと一緒のところ」
私と一緒のところ……。
竹宮くんのその言い方に胸がきゅんとしてしまった。
私ったら……何考えてるんだろう。
そんなこと言われたらもう……。
一瞬で心を鷲掴みにされたような気がしたけど、ハッとなって気持ちを落ち着かせる。
まずは受験だ、奈々美。突破しないことには彼と“一緒のところ”には行けないんだから。
※※※
2学期の期末テストも返却され、まずまずの点数。もう少しで400点といったところ。学年の平均点も1学期よりは下がっているので偏差値的には問題なさそうだった。
「奈々美、よく頑張ったわね。難しくなってるのね。ほぼ8割ってすごいじゃない」
「はぁ……良かった。あのまま野城川って言ってたら今頃倒れてたよ」
「そうね、これが奈々美のペースよね」
そして塾の三者面談に行く。冬期講習の時間割の案内もされる時期である。
「そうでしたか。お電話で聞いてはいましたが、疲れてたのね。奈々美さんは野城川も考えてくれていたんだね。こんなこと言っていいのかわからないけど、休息できたのは良かったと思います。冬期講習でも適宜休憩を挟んで無理せずにいきましょう」
「ありがとうございます、先生」
お母さんが言う。私も倒れてしまったけれど、それによって自分の目指すべき高校がわかったようなものなので、これで良かったのかなと思っていた。
そして冬期講習の用紙をもらって帰ってきた。
その後、学校の三者面談もあった。今回はこれまでの成績や大まかな内申点、進学先の確認など。
担任の藤井先生には1学期と変わらず星山岡高校を志望していると伝えた。ちなみに松永先生は来ず、普通の三者面談だった。
松永先生には、私が倒れた時やその後も相談に乗ってもらったな、と思いながら私は藤井先生の話を聞いていた。
思えばこれまでずっと――松永先生には助けてもらっていた。喋った回数は少ないけれど一つひとつの言葉は全部覚えている。そのぐらい、私にとって松永先生は受験生の大事な時期に支えになってくれた存在。
三者面談の後、お母さんと校舎を出るとそこに松永先生が歩いていた。
「あ……松永先生……!」
私は先生のところに向かっていく。
「梅野さん、今日は三者面談だったか」
「はい、あの……藤井先生にも言いましたけど……これまで通りの志望校で……星山岡にします」
「そうか」
星山岡、と聞いて先生の表情が少し和らいだ気がした。
「あの時は……ありがとうございました」
「まぁ、ただ思ったことを言っただけだ。この時期は誰もが悩むからな」
「松永先生……ありがとうございます」とお母さんもお辞儀をして、私たちは帰って行った。
※※※
冬休みに入り、冬期講習が始まった。
マフラーをきゅっと締める。吐く息が白くて、冬の空気はどこか受験の緊張感に似ていた。
向かい側の信号には夏にもいた、自転車に乗った男の子と女の子が仲良さそうに話している。よく見るとマフラーが色違いでお揃いのような気がした。
あんなふうに笑い合えるって、いいな。
いつか私も――そんな日が来るのかな。
今日はクリスマスだからデートしているのかも。
あ、いけない。こんなことを考えている場合じゃなかった。
そして塾から帰り、リュックを部屋に置いていたらピロンとスマホの音が鳴った。
青空のアイコン――竹宮くんだ。
そこには、
『メリークリスマス』という文字とサンタのスタンプが可愛く動いていた。
竹宮くんからクリスマスのメッセージが来るなんて。
嬉しくて、クリスマス以上に特別な日のようで、高鳴る気持ちを抑えられない。
私も、
『メリークリスマス』と打って、サンタがソリに乗っているスタンプを送信した。
受験生だけど男の子と――竹宮くんとメリークリスマスって言えたことが、私の心の中をぽかぽかにしてくれた。
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