第15話 「前を向いて」

「…………何というか、哀れ……だな」


 魔女もとい、ヴォルカーノの過去を見終えた蓮が最初に漏らした言葉は、その一言だった。


「ヴォル──……魔女にも魔女なりの、苦しみがあったんですね……」


「姉さんだって人間なのよ……。心もあるし、生きてだっているよ。なのに……」


 ベレもリブロもそれだけ言うと、暗い表情でだんまりとしている。


 1500年以上前には当たり前のように存在した差別。しかし現代を生きる彼女らにとって、それは遠い過去の出来事にすぎなかった。


「……何であれ、目的がはっきりした。ヴォルカーノは世界を、それとベレちゃんを滅ぼすつもりで動いてる。止めない理由はない」


 しかし、セグレトは一片の情も見せず、冷ややかに言い放った。


「薄情者。少しくらい同情してやってもいいだろ」


 言い返すように、蓮がそう言うも、セグレトはお構いなしに続けた。


「誰にだって、そういう過去の1つや2つくらいあるよ。かくいう私にだって──」


 そう言いかけたところで、言葉を止めた。自身の過去を思い出そうとした瞬間、吐き気に顔を歪め、頭を押さえた。まるで、何かを警告するかのように……。


「……ごめん、何でもない」


 何かを振り払うように頭を動かすと作り笑いを浮かべ、更に奥を目指し始めた。


「先に進むよ」


 3人はそう呼びかけられると、セグレトの後を追うように歩み始めた。


 ***


 部屋の奥に開かれていた通路はひんやりとしており、とても火山とは思えないような場所だった。


「相も変わらず時間が無いから、歩きつつ作戦を考えるよ」


 次第に下がっていく気温が気にかかるも、そんな事考えてる場合ではない。彼女らは歩みを止めずに作戦を練り始めた。


「セグレト、このメンバーだと能力的にお前が一番強いはずだ。俺とリブロで援護するからその隙に、ヴォルカーノに良い一撃を入れてくれ」


「無論、ベレちゃんは休んでてね。その身体で無理しちゃ危ないから。……大まかな作戦はこんな感じかな。でも、問題は相手がどう出てくるかだ」


「ベレ、ヴォルカーノはどんな魔法を使ってきた?」


 相手の戦闘手段が分かれば戦いやすくなる。さっきまでヴォルカーノとの戦闘を繰り広げていたベレから話を聞いた。


「聞いた感じだと、ヴォルカーノが使う魔法は焼き尽くす魔法ブルシアロ爆破する魔法エスプロージョン、あとは炎の光線を撃つ魔法ラギ・フィアンマかな。どれも強力な攻撃魔法だ」


 セグレトはベレの曖昧な言葉を頼りに、ヴォルカーノの得意魔法を導き出してみせた。


「火属性対策を考えた方がいいな。セグレト、お前の能力でどうにかなりそうか?」


「できるにはできるけど、私1人でどうにかなるかな……あっ、そう言えばさっきリブロが岩石を飛ばす魔法ランチア・サッソ使ってたよね?あれもあれば……」


 地属性魔法が得意なら魔女に強く出れる。そう思い、リブロに協力を求めたが返事が返ってこない。振り向くと、リブロはうつむきながら歩いており、セグレト達に話など聞いてなかった。


「……リブロ」


 そんなリブロの前に立ったセグレトは肩を掴み、目を合わせた。セグレトの目を、リブロも不機嫌そうに見つめ返した。


「……何?」


「気持ちは分かるけどさ、大事な人なら尚更止めてあげないと」


 口を閉じ続けるリブロに諭すように言うも、鼻息を立てて目を逸らされた。


「ふんっ、今更何よ。ここまで来たんだから、覚悟なんて決まってるわ」


 しかし、言葉とは裏腹に杖を握る手に力は感じられない。手は震え、段々と力が抜けていき、ついには杖を床に落とした。カランカランという乾いた音が辺りに響き、その音すらリブロの耳には入ってこなかった。


「覚悟……なんて……」


 唇を噛むリブロの目は潤み、溢れそうなもの無理矢理抑えている。


「……俺達は先に行ってる。いくぞベレ」


「えっ、あっ、はい」


 心情を察した蓮は、ベレの手を引いて先に進み、セグレトとリブロの2人だけにしてあげた。


 2人が去ると洞窟内は静まり返り、セグレトはリブロだけを見つめている。そんな気まずいような、なんとも言えない空気が肌を突いてる感じがした。


「……さ、リブロ。もうここには私しかいないんだからさ……おいでよ。まだ吐き出してないもの、あるんでしょ」


「セグレト……」


 両腕を広げて優しい顔で待ち構えるセグレトを前にすると、抑えていたものが一気に溢れた。


「魔法使いになって……延ばしたくない寿命も延ばしたってのに……」


 声を押し殺し、ついにはその腕の中に飛び込んだ。


「それで……2000年も生きて、やっとお姉ちゃんに会ったらっ──!」


 初めて見せたその弱い姿は、いつもの大人びた雰囲気ではなく、子供っぽい情けなさがあった。セグレトは、自身の胸の中でわんわんと泣く彼女を、無言でそっと抱きしめてあげた。


「やっと……やっと会えたのに……っ!」


 温かく柔らかい腕から感じる、久しく忘れていた母性に、リブロは心ゆくまで身を委ねた。


 ***


「いいか、ベレ。あいつらが戻ってきても──」


「分かってますって。何も聞きませんよ。……あっ、来ました!」


 先に進んでいた2人は、セグレトとリブロが追いついたのを見て、手を振って迎えた。合流すると、誰も特にリブロの話には触れずに事を進め始めた。


「あれ?もっと先にいるかと思ってたけど、こんなところで何してるの」


「あーいや、それがな……見てくれよ」


 セグレトの問いに、蓮が拳の甲を壁にコツンと当て答えた。


「こんなところに壁があるんだ」


「だから進めないんですよっ!」


 ベレが頬を膨らませ、プンプンと怒っていた。そんな可愛らしい姿を見たリブロは気持ちを切り替え、壁の正体を探り始める。そっと触れた指先から全身に、懐かしさと憎悪が入り混じった魔力が駆け巡る。


「……姉さんの魔力だわ。おそらく、緊急で張られた簡易擬態結界。……まっ、何であれ古い魔法よ。今解除するわ。魔法を解除する魔法キャンセラジオーネ


 慣れた手つきで杖を壁に向け、魔解魔法を呟いた。すると、一瞬壁がひび割れるように輝き、2つに割れて奥への道が開けた。


「流石だね」


「きっとこの先に姉さんがいるわ……。みんな、心して行くわよ」


 リブロの言葉に3人は頷き、中へと入っていった。


 ***


「まだ足りない……。火山を噴火させる魔法エルツィオーネを発動させるには全然だ……もっと、もっと俺に魔力を……!」


 ヴォルカーノの周りには抜け殻となった魔道具がいくつも転がっていた。エルツィオーネの発動のために、魔力を抜き取られたらしい。そんな機能停止した魔道具を気にもせず、蹴飛ばしながら部屋を彷徨く。


「最後はこれか……。だが、お前には期待している」


 ヴォルカーノの目の前に置かれていたのは、何の変哲もない普通のスプレー缶──に見える、ベレの命の源、“マテリアレスプレー”。


 この強大な魔力を奪い取れば、エルツィオーネを発動させられる──スプレーに手を伸ばした、その時だった。


「待て!」


 一人っきりの部屋に、そんな声が響きわたった。


「……小細工は通用しなかったか」


 振り向くとそこには、4人の影があった。


「ヴォルカーノ!お前の野望もそこまでだ!」


「マテリアレスプレーを返せ!」


 セグレトと蓮が2人して声を張り上げるもヴォルカーノは怯まず、無視してリブロの方へ目をやった。


「リブロ。お前が人を辞めた事は許さんが、これも何かの縁だ。どうだ、俺と手を組もうじゃないか」


 彼女の目には、姉妹を思う気持ちなど宿っていない。ただ世界を滅ぼすことだけを見据えた、哀れで寂しい光を灯している。


「さぁ、リブロ……!」


 そんな目を向け、手を差し伸べるも、その手が取られる事はなかった。


「手を組むって……?ふざけんじゃないわよ!例え姉さんだろうが何だろうが、間違ってたら止めるのが家族ってもんよ!」


「家族!良い言葉ですよね!私も家族セグレトさんのために、戦います!」


 答えを聞くとヴォルカーノは、はぁっとため息を吐き、杖を回して風を切り、構えた。


「交渉決裂、か。残念だが、誰であろうと計画の邪魔をするなら容赦はしない。この世界諸共、焼き尽くされて散りやがれ!」




 次回 第16話 「決戦!火山の魔女『ヴォルカーノ』!」

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