第7話 「魔女と魔法使い」

「何しに来たかって……とりあえずその腕、降ろしてくれない?」


 突如店内に現れた魔法使い──リブロは、セグレトに問答無用で殴りかかられたが、蓮とベレの制止によって一命を取り留めた。


「セグレト、離れてやれ。それじゃあただの脅迫だ」


 蓮がセグレトの拳を降ろさせ、彼女を引いてリブロから離れさせた。


「セグレトさんは、本当はすごく優しい人なんです。驚かせちゃってすみません」


 直感なのか何なのか、リブロを悪い人じゃないと感じ取ったベレは、親切に手を差し伸べてリブロを立ち上がらせた。


「……そう、ありがとう」


 その手を受け取り立ち上がると、ローブやスカートに付いた埃を払い、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。小さく息を吐き、表情を引き締めた。


「じゃ、改めまして──私はリブロ。2000年くらい、魔法使いをやらせてもらってるわ。訳あってここに侵入したんだけど……それについては……まぁ、その……申し訳ないと思ってるわ」


 律儀に頭を下げて謝罪する姿を見ると、セグレトは能力を解除し、鬼から人間の姿ヘと戻った。


「何でそんな事したの」


 ようやく冷静さを取り戻し始めたセグレトは、落ち着いた声で尋ねた。


「私は、魔女がこの店に忍び込んだのを見たけど逃しちゃって、何か手がかりがないかと思って入ってみたんだけど……まさか店主がいるとは思わなかったわ」


 やはりと言うべきか、リブロは盗みに入ったのではなく、むしろ逆の立場の人物だった。


「ほら、違ったろ?最初から話してればよかったんだよ」


 セグレトの胸に、蓮の言葉がグサッと刺さった。正論すぎて、反論の余地もない。


「うっ……は、話も聞かずに殴りかかってごめんなさい……」


 冷静になると、自分がどれだけ取り乱していたかに気付き、気まずそうに頭を下げた。


「でも、ちょっと嬉しかったです。セグレトさんが私のために、あそこまでしてくれるなんて……!ありがとうございました!」


笑顔のベレにそうフォローされ、セグレトの目が潤む。


「……私こそ、そう言ってもらえて嬉しいよ、ベレちゃん……!」


 セグレトは思わず目をそらした。照れ隠しか、あるいはまだ心のどこかが怒っているのか。そんな2人は、お互いを慰めるように、静かに抱きしめ合った。


「……で、魔女ってのは何者なんだ?教えてくれ」


 そんな2人を横目に見ながら、蓮がリブロに問いかけた。


「知ってるかしら?少し前に、魔道具が盗まれる事件が立て続けに起きてたの」


 魔道具の窃盗……丁度1月程前だったか。セグレトにその話をしたのは。しかしベレの誕生の気を取られ、それ以上話すのをすっかり忘れていた。


「あー……あの事件か……」


 もちろん、蓮もその話は以前から知っていたが、しばらくその話を聞いていなかったせいで、完全に気を緩めていた。


「あの犯人って、魔女だったんだな。全然知らなかったし、何なら……油断し過ぎてた……」


 後悔するように頭に手を当て、気を落としていた。


「仕方ないわ。しばらく魔女も大人しくしてたし。でも最近、また動き出したらしくて……今日、ようやくここまで追い詰められたの」


その言葉には、どこか自信が滲んていたが、リブロは悔しそうに唇を噛んだ。


「……だけど、もう少しのところで逃げられた。ほんの少し……判断が遅れたのよ……。……それで、今に至るわ」


 リブロは入ってきたドアに目をやり、肩をすくめた。魔女を調べているうちに、こうしてセグレトらと出会ってしまったようだ。


「……今の話を踏まえた上で、聞きたいことがある」


 リブロの話を聞き終えたセグレトは、口元に手を当て、リブロをまじまじと見ながら聞いた。


「何故魔女を追ってる。一般人が犯罪に首を突っ込むのは危険すぎる」


 まだ警戒しているのか、そんな質問を投げかけた。


「確かにそうだな。こう言う案件は、保安局に任せるべきだ」


 蓮が賛同してリブロを攻めると、狼狽え始めた。


「えっ!?え、えっと……その……」


 2人に見つめられ、何とか答えを絞り出した。


「……そ、それは……私がその妖魔秩序保安局の局員だからよ。やつを捕まえるのは、私の任務なの」


 威勢良くそう言い放ったが、目は泳いでおり、言葉を濁している。明らかに何か隠しているように見えた。


「本当?」


沈黙。リブロはほんの数秒、答えに詰まった。


「……ほ、本当よ」


だが、その目は揺れていた。


「……だったら、保安局の局章でも見せてくれる?」


セグレトがリブロを試すように、そう聞いた。


「……紛失したの。魔女を追う時に、フルスピードで飛んだから……」


やはり、怪しい。2人はリブロが局員だと信じるのは、無理な話だった。


「……でもなぁ……」


セグレトが諦めるようにそう呟き、蓮が眉間にしわを寄せたまま拳を握る。


「……あぁ。疑う気持ちはある。でも、今は選んでる余裕なんかないんだよな……」


セグレトが静かにうなずいた。


信用なんてできるわけない……でも、賭けるしかない──セグレトは自分にそう言い聞かせた。


 情報も何も無いセグレト達にできる事は、ほとんどない。保安局に通報したって、きっと間に合わない。


──だが、目の前にいる彼女は情報を持っているらしい。それに、未知との戦いとなると予測できる。人手が多いに越した事はない。


セグレトは唇を噛んだまま、しばらくリブロを見つめていた。


「……もちろん疑ってる。でも、今はそんな事言ってる場合じゃない」


小さくそう呟き、ため息をつく。


「私達が持ってない情報を、あんたが持ってるなら――協力してもらうしかない」


 今頼れるのは彼女しかいない──そう考え、一旦その話は置いといて、リブロを信じる事にした。


そして人懐っこく素直で、疑う事を知らないベレは、1人勝手に話を進めようとしていた。


「リブロさんはきっと……悪者を捕まえる人なんですよね……?だったら──」


さっきまで泣いていたベレの目に、光が灯った。


「どうか力を貸してください!今、貴女しか頼れないんです!」


「そ、そんなに焦って何なのよ。一体何が盗まれたっていうの」


 小さい体でグイグイと寄ってくるベレに圧倒されながら、そう聞いた。


「……私は、盗まれたもの──マテリアレスプレーに宿る妖精なんです。普通妖精は自然に宿るものですが、そこは目を瞑ってください。……だから、もしそのスプレーに何かあったら──……」


「……あんたが死ぬ……のね……」


 哀れむような表情で、ベレを見た。そんな顔向けられては、ベレも悲しくなってくる。それでも、今にも泣き出したい気持ちをグッと堪えて、話した。


「私……まだ死にたくありません。セグレトさんや蓮さんと……まだ、一緒にいたいんです」


ベレの声が震えながらも、真っすぐリブロに届く。


「どうか……魔女の居場所を教えてください!」


 死への恐怖、生きることへの希望、何だってしてみせる覚悟、ベレの言葉にはそんな意志が詰まっていた。


 その言葉を聞き、目を見て、リブロの心は動かされた。そして、セグレト、蓮と目が合うと2人は静かに頷いた。ベレの思いと、リブロの考えをしかと受け止めた。


──自分には、正直見ず知らずの妖精の命なんて関係ないと、一瞬思った。だが、何か違う。家族のように仲睦まじ3人を見て、リブロの何かが動かされた。


「……分かったわ。私1人で解決するのは無理だと思ってたし……私からもお願いする。行きましょう。魔女へ会いに」




 次回 第8話 「魔力探知」

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