ただの雑貨屋なのにいつも世界の命運を握る羽目になるんだけど!?〜青髪少女の日常はいつの間にかヤバい方向へ進んでゆく〜
ばばろあ
第1章 妖精少女と孤独な魔女
第1話 「レンガの街のセグレト」
──プロローグ──
──ある時、ある場所で、孤独に過ごす者が散らかった部屋の中で、1人ボーッとしていた。
「もう、何年くらい経ったか……」
悠久の時の流れを思い返すと、意識が飛びそうになった。
「……ざっと2000年、か……」
彼女にとって、それは長く果てしなく、人生何十周分にも相当するものだった。
だが、この長い努力が報われる時も、そう遠くない──そう思いながら、各地から盗んだ魔道具に撫でるよう触れ、ニヤリと笑った。
***
そんな事は露知らず、少女は今日も街の片隅で日常を過ごしていた。
青い空。澄み切った空気。空を飛び回る妖精たち。そして、その雰囲気に上手く溶け込むレンガの家々が並ぶ街──ファット・マットーニ。
人間妖怪関係無しに、時に協力、時に喧嘩をしながらも皆が仲良く生活するこの街に、微かに混じり始めた不穏な気配に気付かず、今日も今日とて雑貨屋を営む少女の姿があった。
「ふわぁ……ねっむい……」
雑貨と魔道具を取り扱う小さな店。そのカウンターに顎を乗せたまま、大あくびをした少女の名はこの店の店主、セグレト。青く綺麗な髪をポニーテールにまとめた、顔立ちもスタイルも良い可愛らしい女の子——
──なのだが、彼女の評判は、“美人”より“だらしない”が先に来る。理由は言うまでもない。
「なーんでこんな昼寝日和に、私は店を開かないといかんのかねぇ……」
季節は春らしく、暖かな陽気が何の変哲もない雑貨から、魔道具まで様々なものが置いてある店内を漂っている。
そんな空気に包まれ、今にも寝そうだったが──
カランカラン
──と、そこで彼女の眠気を覚ますかのようにドアベルが響いた。
客の一人もいない店に入ってきた物好きは、黒髪を後ろで結んだ中性的な青年。セグレトの親友、蓮だった。
「よっ。……またそんな格好で出迎えて」
「いらっしゃー……はぁ……何だあんたか」
客かと思えばただの親友。蓮の顔を見るや否や開けた目を閉じ、ため息を吐いた。せっかく来たのにそんな事をされては、蓮も黙っている訳にはいかない。
「何だとは何だ。せっかくお前を心配してわざわざ来てやったってのに」
「心配?何の事」
思い当たる節なんてない。また何か皮肉めいた意地悪な事を言い出すのだろうと思っていた。
「確かにこの街じゃ被害はまだ出てないかもしれないが、隣町でも何件かやられてるって専ら噂で…………」
長々とそう語られ始めたが、やはり心当たりはない。適当に聞き流そうと、一眠りしようとした時だった。
——ふと視線を落とせば、蓮の手に紙袋が握られているのに気が付いた。セグレトの興味が一気にそちらへ傾く。
「……何それ」
「ん?あぁこれか」
ドサッとセグレトが突っ伏すカウンターの上へ置いた。袋を置いた音に驚き、目を開け丸くするも、そんな袋を目の前にしセグレトは不思議そうに匂いを嗅ぐ。ほのかに香る、優しい小麦の香り……
「っ!この匂いは……!」
匂いを嗅ぐと表情が一変し起き上がり、キラキラした目で紙袋を開けた。中を見ると、可愛らしいアルミ箱が3つほど入っている。それを見た瞬間セグレトは更に声色を上げ、舞い上がった。
「やっぱり!今流行りのクッキーじゃん!いただきま〜す!」
礼すら言わず、アルミ箱ごと食べそうな勢いで手に取ろうとするも、その直前で蓮が袋を取られまいと横取りした。そんな事をされ、セグレトは勢い余ってカウンターに額を思い切りぶつけた。
「人の話もちゃんと聞けない奴には、これがお似合いだ」
意地の悪い笑みを浮かべながらそう言った。食べ物の恨みは恐ろしいとはこの事か。その時、セグレトの中で何かがプツンと切れた。
「そんな事するんだ……じゃあこっちも本気出すから!種血変換『絡新婦』!」
セグレトは能力者だった。それも、『種族を換える能力』の。そう宣言すると、ワンピースが華麗な和装へと変わり、背に八本の蜘蛛の脚が咲くように生えた。セグレトの瞳は紅を帯び、店内に妖艶さが満ちていく。糸を操り、その美貌で人を惑わす妖怪——絡新婦に成った。
「おい!能力はズルだろ!」
そう抗議しようも無駄だった。背中に生えた蜘蛛の足から糸が伸ばされ、いとも容易く紙袋を奪い取られた。ついでに糸で蓮の体を引き、バランスを崩させる事でカウンターから落として、仕返しして見せた。
「ズルいも何も、意地悪したのはそっちでしょうが」
箱を奪い取ると落ちた蓮には目もくれず、すぐに蓋を開けると、クッキーを次から次へと口へ放り込み始める。
「この優しい甘さ!しっとりサクサクって感じ!やっぱ噂通り!」
両手で頬を支え、溢れんばかりの笑顔でそう言うと同時に、能力を解除すると元の服装に戻り、背中の蜘蛛脚も引っ込み、人間の姿になった。
「あらゆる種族に成る、ねえ……。なんでそんな反則能力、生まれ持ったんだか……」
よじ登るようにカウンターに座り直した蓮は、そんなセグレトの笑顔を見ると呆れた。そして続いて横から手を伸ばし、クッキーを1枚食べた。
「……もぐもぐ……おぉ!こりゃ美味い!……って、そうじゃない」
「……もぐもぐ……ごっくんっと。そう言えば話があるとか言ってたよね。被害がどうこうって」
リスのように頬を膨らませていたセグレトは、ようやく思い出したように首を傾げる。
「……まったく……ほら、ジッとしてろ」
蓮はため息まじりに彼女の頬の端にくっついたクッキーのかけらを指で取ってやり、自分の口へ放り込んだ。
蓮が真剣な顔で話をし始めた。
「改めて最初から話すが、最近妙な事件が続いてるだろ。お前の店も魔道具を扱ってるからな、ちょっと気になって」
「妙な事件……?」
「ファット・マットーニじゃまだ被害は出てないけど、隣町じゃ三件もやられてるんだとさ。お前も気を付けろよ」
「ま、待ってよ」
話をどんどん進められ、困惑しながら一旦遮った。
「今度は何だ」
「妙な事件って何?私何も知らないんだけど」
次回 第2話 「ふしぎな道具と目覚めた光」
第1話、お読みいただきありがとうございます!励みになるので、もしよろしければフォロー&☆評価お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます