偃月刀と強欲な慈鳥
ましら 佳
第1話 月に辿り着く娘
月満ちて、本日、今まさに宮廷家令が出産に臨んでいた。
母親となる女の名前は、
ここは王族の離宮として建てられた邸宅。
その昔、ある皇女が懇意の女家令に下賜したもので、それは贅沢な造りになっている。
夕方、うっすらと三日月が空にかかる頃、きらきらしいシャンデリアの輝くその一室に、女家令達が集まっていた。
「・・・ほら!もうちょっとよ!」
典医、軍医でもある
「・・・ええ!?まだなの!?産まれる前から、なんて親不孝モンなの!?」
「・・・アンタねえ、産気づいたの、たった一時間前だよ?それでこれだけ分娩進んだのよ?・・・あんたの産道ったらすごい伸びるバッグみたい、これなら出血も少ないかも・・・五年前の
痛い死ぬと大騒ぎの妹弟子を、
昼に好きなものだけたらふく平らげ、昼寝をしていた所に陣痛が来て以来、死ぬの殺されるの最悪だのと大声で罵っている。
「・・・親不孝者は、
赤ん坊相手にも容赦はしないし、母親としての自覚も常識も無い言い草であるが、それもまた女家令の特性。
さあ、いよいよ・・・と、
彼女は、
宮廷で魔女と呼ばれる女家令である。
彼女の元夫は家令の
家令の生き死にや動向など人事でしかないとは言ったものだ。
そして、その魔女は今、デスクの上にたくさんの不思議な天体模型を置いて、チョコレートを摘みながら何かを計算している最中であったのだ。
これで人間や物事の運命を読むらしい。
「・・・ああ、ちょっと待ってよ」
いざ、と構えていた
「・・・今だと、星廻りがまずいから、
姉弟子の言葉に
激痛で死にそうなのに!!
「何言ってんだよ!!こんな真っ昼間に星も月もあるもんか!我慢なんか!!出来るわけないじゃ無いの!!!」
「・・・まあ、バカなのねえ。明るくて見えないだけで、いつも星はあるんだよ!?・・・ったく、この根性なし!」
姉弟子はそう言うと、つまらなそうな顔でまたデスクに向かった。
そしてその後すぐに、耳を
「・・・ああ、良かった!産まれたよ。よくやったね!」
「・・・・
大喜びの
この
「・・・ねえ、本当に人間?恐竜でも生まれたのかと思った大声なんだけど・・・」
分娩の疲労を物ともせずに
彼女は嬉しそうに受け取ると、産まれたばかりの妹弟子に挨拶をした。
「・・・ああ、この凶星持ちの因業娘。お前は私達の
それがどう言う意味なのか、妹弟子達は意味を図りかねたけれど、きっととんでもない娘なんだろうとそれだけは腑に落ちた。
新たな女家令の誕生の知らせは、宮城の総家令の
「・・・
彼はやっと五歳になった弟弟子を抱き上げた。
この子の母親である妹弟子の
その自分の子供、と言うのはまさにこの総家令と女皇帝との間の太子である。
その
いずれこの弟弟子を太子の侍従にと考えていた。
それは愛しい女皇帝の為に、そして息子である太子の為に。
そして、何より自分達、家令の為に。
「
「うん、もう決めてある。・・・陛下が強く瑞兆となる家令をとお望みだからな」
家令は総じて、鳥の名前を戴く。
"
「知ってるか?頭のてっぺんにな、
宮廷の魔女によって「月に辿り着く凶星持ちの因業娘」と断じられた、生まれながらの女家令は、宮廷において今まさに駆け上がって行こうとする兄弟子によってそう名付けられた。
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