Violet Lightning, Violent Longing (EP. 07)

『ライト、気象状況の急激な悪化を予測。マシンの減速を要請します』


 Mの、温度のない声が脳に響く。

 やはり、と彼は思った。彼女は完璧だ。完璧だからこそ、彼の渇きを理解できない。

 他のマシンが僅かにペースを落とすのが、データとして脳へ流れ込んでくる。だが、彼は歓喜していた。

 そうだ、これだ。これこそが望んだ舞台だ。

 制御されたコース、計算されたレース展開、そんな退屈なものじゃない。人間の予測も、アルゴリズムの計算も超えた、カオスそのもの。

 雷鳴が轟く。

 空が裂け、紫電が雲間を走る。

 美しい、と彼は思った。


『――』


 Mが必死に何かを警告している。グリップの低下、ハイドロプレーニング現象の危険性。

 言いたいことは理解できる。

 だが、彼は聞いていなかった。

 彼の魂は、今やマシンという檻を抜け出し、あの荒れ狂う空に魅了されていた。あの制御不能な光の奔流の中に、かつて自分が持っていて、そして失った、生命そのものの獰猛な輝きを見ていた。


「見てるか、M。あれが、本物の光だ」


 彼は、マシンのアクセルを指示する。

 雷雲の中心へ、まるで新しい恋人の元へ向かうかのように、マシンを加速させていく。

 制御を捨て、本能に身を委ねる。

 その背徳的な快感に、彼の意識は溶けていった。

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